僥倖げうかう)” の例文
僥倖げうかうにも卵膜らんまく膨脹ばうちやうさせた液體みづ自分じぶんからみちもとめて包圍はうゐやぶつた。數升すうしよう液體みづほとばしつて、おどろいてよこたへた蒲團ふとんうへかさうとした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女はもしも浮世のある僥倖げうかうに引きずられて、三十三といふ年齡を通過したならばと考へて悲しんだのである。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
もだくるしみ、泣き叫びて、死なれぬごふなげきけるが、漸次しだいせいき、こん疲れて、気の遠くなり行くにぞ、かれが最も忌嫌いみきらへるへび蜿蜒のたるも知らざりしは、せめてもの僥倖げうかうなり
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小生事僥倖げうかうにも相應さうおうの資産獲得いたし候も、妻もなく、子もなければ、小生生存中は養女となし、死後はのこす可き物は何物によらず讓り渡し度く存じ居り候。小生は、云々
かれこの心細こゝろぼそ解答かいたふで、僥倖げうかうにも難關なんくわん通過つうかしてたいなどとは、ゆめにもおもまうけなかつた。老師らうし胡麻化ごまか無論むろんなかつた。其時そのとき宗助そうすけはもうすこ眞面目まじめであつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自身番の灯の見えるところまで辿たどり着いたのは、僥倖げうかうといふ外はなかつたのです。
さるを僥倖げうかうにもその夕我を尋ねし人なく、又我が在らぬを知りたるは、例の許を得つるならんとおもひて、深くも問ひたゞさで止みぬ。我が日ごろの行よくつゝしめるかたなればなりしなるべし。
(にやけたやつぢや、國賊こくぞくちゆう!)とこゝろよげに、小指こゆびさきほどな黒子ほくろのあるひらた小鼻こばなうごめかしたのである。ふまでもないが、のほくろはきはめて僥倖げうかうなかばひげにかくれてるので。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
酒屋さかやにたゞすと、「ときさかさにして、ぐん/\おりなさい、うするとあわちますよ、へい。」とつたものである。十日とをかはらくださなかつたのは僥倖げうかうひたい——いまはひらけた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)