今年こんねん)” の例文
「ハイ、今年こんねん取つて五十三歳、旦那様に三ツ上の婆アで御座います、決して新橋あたりへ行らつしやるなと嫉妬やきもちなどは焼きませんから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかるに昨年さくねん十一ぐわつ二十一にちに、今年こんねんぐわつ十一にちおい金解禁きんかいきん決行けつかうすることに決定けつてい發表はつぺうたことは我國經濟わがくにけいざいため非常ひじやう仕合しあはせである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
今年こんねんってから、幕府は講武所を設立することを令した。次いで京都から、寺院の梵鐘ぼんしょうを以て大砲小銃を鋳造すべしというみことのりが発せられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今年こんねんの参府のお土産はそれにしようと、勝手にひとりぎめして、紐差ひもさし山裾やますそに、さっさと鋳造所をこしらえてしまった。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
去年の今日こんにちは江城に烏帽子えぼしの緒をしめ、今年こんねんの今日は島原に甲の緒をしむる。誠に移り変れる世のならひ早々打立候。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今年こんねんは多少様子もわかり、且つは幾分考ふる所もあり、こゝ一番と努力せしこととて今後非常の天変などのない限りは多少の収益が見られることと思ふ。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
孝「もっと今年こんねんより十九年以前に別れましたるゆえ、途中で逢っても顔も分らぬ位でありまするから、一緒に居りましても互いに知らずに居りましたかな」
私は今年こんねん、五十一歳になる、普通のかたならば働き最中、ソレにおめおめ引込む、甚だ意気地いくじない次第だが、如何いかにせん日本では、無理に余裕を造らねば、余裕が出て来ない。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
相生さんの話によると、多い時は着荷ちゃくにの量が一日ならし五千トンあるそうである。これがため去年雨期うきを持ち越した噸数は四万噸で、今年こんねんはそれが十五万噸にのぼったとか聞いた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つかはされし處せがれ忠助は稍々やう/\今年こんねん十一歳なるゆゑ伯父をぢ長兵衞は名代みやうだいとして江戸へおもむかんと調度したくなし金兵衞方に幼少より召使めしつかひし直八と云者萬事ばんじ怜悧かしこくなるに付き之れを召連めしつれ鴻の巣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時なるかな、今年こんねんの文学界漸く森厳になりて、幾多思想上の英雄墳墓をいでて中空に濶歩する好時機と共に、かれも亦た高峻なる批評家天知子の威筆に捕はれて、明治の思想界に紹介せられたり。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
金持ちのいへでは今年こんねんに限つて桑の葉が足りないのを不思議に思つてそれとなく見張りを付けてりますと見張みはりの者はの有様を見つけましてそつとうちへ知らせましたからそれと云ふので大勢で桑畠を
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
また今年こんねんも夏が来て
しかし手島が渋江氏をうて、お手元てもと不如意ふにょいのために、今年こんねんは返金せられぬということが数度あって、維新の年に至るまでに、還された金はすこしばかりであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今二週間も経てば青豌豆あをゑんどうの収穫に取かゝるべく、しかしこれは副産物として利益も細いが、余今年こんねん本稼ほんかせぎは実に六月初旬よりなれば目下その方の準備で仲々忙しい。(後略)
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
仰せの通り長二郎は全く逆上のぼせてると存じます、平常ふだん斯ういう男ではございません、わたくし親共は今年こんねん六十七歳の老体で、子供の時分から江戸一番の職人にまで仕上げました長二郎の身を案じて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今年こんねんの盛夏、鎌倉に遊びて居ることわづかに二日、思へらく此秋こそはこゝに来りて、よろづの秋の悲しきを味ひ得んと。図らざりき身事忙促として、空しく中秋の好時節を紅塵万丈のうちに過さんとは。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
保さんは今年こんねん大正五年に六十歳、妻佐野氏お松さんは四十八歳、じょ乙女さんは十七歳である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今年こんねん水辺すゐへんへ出可申心がけ候処、昨日より荊妻手足痛てあしいたみ(病気でなければよいと申候)小児くわん狂出候而くるひいでそろてどこへもゆかれぬ様子也、うき世は困りたる物也、前書くはしく候へば略し候、以上。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)