二品ふたしな)” の例文
盗まれた二品ふたしなというのも、ひょっとしたら彼女の偽瞞ぎまんであるかも知れない。小さな二品を人知れず処分するのはさして面倒なことではない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
首と衣を手に入れた山賊は、暫くその二品ふたしな資手もとでに、木曾街道の旅人をおどしていたが、間もなく諏訪すわの近くへって首の由来を聞いた。山賊は青くなった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その二品ふたしなだけでも三にんのおよめさんのおくものにくらべて、けっしてひけをとるようなことはありませんでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして二品ふたしなばかりの料理をあつらえて、申しわけに持って来させたビイルを、めるようにちびちび飲んでいた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いやいや。武田家たけだけにつたわる天下の名宝、御旗みはた楯無たてなし二品ふたしなをお手にれたということではござりませぬか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三度三度献立こんだてを持ってあつらえを聞きにくる婆さんに、二品ふたしな三品みしな口に合いそうなものを注文はしても、ぜんの上にそろった皿を眺めると共に、どこからともなく反感が起って
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くみて後に御膳ごぜんを差上べしといひおもての方へ出行たりあとに寶澤は手早く此夏中このなつちうえんの下へ埋置うづめおき二品ふたしな毒藥どくやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親切な夫人は朝だけ其処そこで取る自分達の食卓を離れずに給仕して下さる。仏蘭西フランスと違つて英国では朝の食事に麺麭パンと紅茶又は珈琲カツフエの外に二品ふたしなばかりのうをと肉との料理が附く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
千葉を遁げる時からたしなんだ、いざという時の二品ふたしなを添えて、何ですか、三題話のようですが、すごいでしょう。……事実なんです。貞操のしるしと、女の生命とを預けるんだ。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次の日も例刻になれば狂女は又ひ来れり。あるじは不在なりとて、をんなをして彼ののこせし二品ふたしなを返さしめけるに、前夜のれに暴れし気色けしきはなくて、殊勝に聞分けて帰り行きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
図らずも蘆屋の釜ならびに山風の笛が手にりましたから、早速右二品ふたしなを渡邊外記という金森家の重役へ預け、仇討あだうちの免状を殿様より頂戴致しまして、公然おもてむき仇討に出立致しまして
仮令たとえわたしには数万金すまんきんを積むとてかえがたき二品ふたしななれど、今のきわなれば是非も一なく、惜しけれど、ついに人手にわたすわが胸中は如何いかばかり淋しきおもいのするかはすいしたまわれ、されど
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
談義が長いので皆辟易へきえきする。次は青磁せいじ香炉こうろだった。この二品ふたしなで一時間余り喋り続けた。その間、私達二人は身動きも出来ない。これくらい窮命きゅうめいすれば堪忍して貰う値打が充分あると思った。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二品ふたしなの行方、大方相解りました」
藤太とうだがね三井寺みいでらおさめて、あとの二品ふたしないえにつたえていつまでもゆたかにらしました。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
色ある二品ふたしなのいわれに触れるのさえいとうらしいので、そのまま黙した事実があった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は今この二品ふたしな琴樋ことひの裏に貼紙をなしてわたしの日頃愛玩あいがんせることを記しおきければ、やがて、その人にりて、これを知らるるでありましょう、これは今より確言かくげんをしておきます……
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)