不殘のこらず)” の例文
新字:不残
水底みづそこ缺擂鉢かけすりばち塵芥ちりあくた襤褸切ぼろぎれくぎをれなどは不殘のこらずかたちして、あをしほ滿々まん/\たゝへた溜池ためいけ小波さゝなみうへなるいへは、掃除さうぢをするでもなしにうつくしい。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
じつわたくし貴方あなたとの談話だんわおいて、此上このうへ滿足まんぞくましたのです。で、わたくし貴方あなたのおはなし不殘のこらずうかゞひましたから、此度こんど何卒どうぞわたくしはなしをもおください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
着し身の疵所きずしよより腹へかけ切疵きりきず一ヶ所脊より突貫つきとほしたる疵一ヶ所のど突込つきこみし疵一ヶ所兩手のゆび不殘のこらず切落きりおとしあり右之通り心當の者是有候はゞ月番松野壹岐守役所へ申出べく候事十二月
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
朝から酒を飮み、日の暮れぬうちから寢込んで、二人とも夢中になつてゐたもので、少しばかり附いた弟子も、不殘のこらず見限つて離れてしまひ、肩を入れた近所の若い者も、ばつたり足を絶つて了つた。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いへうち不殘のこらずしんとしてたが、このおとらないではなく、いづれもこゑんでみやくかぞへてたらしい。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はしがペンキぬりになつて、黒塀くろべい煉瓦れんぐわかはると、かはづ船蟲ふなむし、そんなものは、不殘のこらず石灰いしばひころされよう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それだから追分おひわけ何時いつでもあはれにかんじらるゝ。つまるところ卑怯ひけふな、臆病おくびやう老人らうじん念佛ねんぶつとなへるのと大差たいさはないので、へてへば、不殘のこらずふしをつけた不平ふへい獨言つぶやきである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)