よろづ)” の例文
旧字:
よろづの知識の単純な人達には何色とも呼びかねる、茶がかつた灰色の中折帽は、此村で村長様とお医者様と、白井の若旦那の外冠る人がない。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おなじ六八浅ましきつぶねなりとも、みやこは人の情もありと聞けば、かれをば京に送りやりて、六九よしある人に仕へさせたく思ふなり。我かくてあればよろづに貧しかりぬべし。
これは正太がうまの日の買物と見えぬ、理由わけしらぬ人は小首やかたぶけん町内一の財産家ものもちといふに、家内は祖母ばば此子これ二人、よろづかぎに下腹冷えて留守は見渡しの総長屋
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新平民らしい生涯であつた。有のまゝに素性を公言して歩いても、それで人にも用ゐられ、よろづ許されて居た。『我は穢多を恥とせず。』——何といふまあさかんな思想かんがへだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あかりがつけられると思つてネ、よろづやへボツ/\いつて蝋燭らふそくちやう買つてネ、ぐ帰らうとするとよろづやの五郎兵衛ゴロベイどんが、おとめさん久振ひさしぶりだ一服吸つていきなつて愛想するから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
およそ半年はんとしあまり縮の事に辛苦しんくしたるは此初市のためなれば、縮売ちゞみうりはさら也、こゝにあつまるもの人のなみをうたせ、足々あし/\ふまれ、肩々かた/\る。よろづ品々しな/″\もこゝにみせをかまへ物をる。
先日よろづ鉄五郎氏の未亡人が万氏愛蔵の池大雅堂の一幅を持つて来られてわたくしにみせて下すつた事がありましたが、わからないなりに、わたしはひどく衝たれるものを感じました。
愛情 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
広きもちひなどを物に取り入れて取らせたるに、むげに中善くなりて、よろづの事を語る。
濫僧考補遺 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
よろづ文反古ふみほうぐ、巻五の四、桜の吉野山難儀の冬)
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よろづ栄光さかえ千々ちゞあや
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一はよろづの始めとて
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
村役場と駐在所が中央なか程に向合つてゐて、役場の隣が作右衛門店、よろづ荒物から酢醤油石油たばこ、罎詰の酒もあれば、前掛半襟にする布帛きれもある。箸でちぎれぬ程堅い豆腐も売る。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つつしみなき高慢より立つ名なるべく、物にはばかる心ありてよろづひかえ目にと気をつくれば、十が七に見えて三分の損はあるものと桂次は故郷ふるさとのお作が上まで思ひくらべて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
豊雄ここに迎へられて見るに、此の富子がかたちいとよく、三〇六よろづ心にたらひぬるに、かのをろち懸想けさうせしことも三〇七おろおろおもひ出づるなるべし。はじめの夜は事なければ書かず。
温厚篤実にしてよろづ中庸を尚ぶ世上の士君子、例へば我が校長田島氏の如きであつたら、恐らく見もせぬうちから玄関に立つ人を前門の虎と心得て、いざ狼の立塞がぬ間にと
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
年来としごろの大宮づかへに馴れこしかば、よろづ行儀ふるまひよりして、姿かたちなども花やぎまさりけり。