よこし)” の例文
よこしまなる人はもちろん話をも防ぎ、ただき道に導き奉り、共に天神地祇ちぎの冥助を、永く蒙り給わんことを願い給うべし。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにしても彼は、もう母が此方を訓めることに依つて自らの鬱憤のはけ口にしたのかもしれない——などゝよこしまな考へを抱いて苦く思つたりした。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
妖惡でよこしまな美しさ、聽く者、見る者を、全身的な陶醉に誘ふ道具立の數々、つい平次もうつとりして了ひさうです。
どんなよこしまな魔力を以つてしても、その聖者が自分の僧房をとざしたその同じ鍵でひらかぬかぎり、この中から囚人めしうどを外へ出すことは出来ぬのぢや。
何かの切っかけで、地道よりもよこしまの方を手っ取り早いように思い込む。それがかずかさなると、世の中を太く短くという暗示になって、悪い方へ転向してしまう。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろ、畸形きけいなもの、よこしまなものとして、あくまで白眼視するのみか、その成長ぶりを見るに及んでは
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と検事はとっさに反問したが、なぜか検事の説を否定するにもかかわらず、法水が、かたわらウルリーケをよこしまな存在に指摘する——その理由がてんで判らなかった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
平和へいわみだ暴人ばうじんども、同胞どうばうもっ刃金はがねけが不埓奴ふらちやつ……きをらぬな?……やア/\、汝等おのれらよこしまなる嗔恚しんにほのほおの血管けっくわんよりながいづむらさきいづみもっさうとこゝろむる獸類けだものども
見慣みならひて平生へいぜいはすはにそだちしは其の父母の教訓をしへいたらざる所なり取譯とりわけはゝこゝろよこしまにて欲深よくふかく亭主庄三郎は商賣しやうばいの道は知りても世事せじうと世帶せたいは妻にまかおくゆゑ妻は好事よきことにしてをつとしりき身上むき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこには信仰もあり恋もあり、古い時代の人間生活が、音楽を通して活発に再現されるが古聖の言った如く、「詩三百一言以ってこれおおえば思いよこしま無し」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
たとへ周子の前にしろ、うつかり斯んな口を利いて、己が心のよこしまな片鱗を見透されはしなかつたらうか、などゝいふ気がして更に邪まな自己嫌悪に陥つた。
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
勘解由は聡明の士だったので、一見して三十郎が心よこしまであり、公卿衆などの間へ推薦することなど、不可能の人間だということを知り、その依頼を断わった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまり、問わず語らずのうちに、ウルリーケを陥れようとした、よこしまな心を曝露してしまったのだ
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
浅黒いジプシイの顔にはよこしまで、毒々しくて野卑で、それと同時に横柄な面魂が浮かんでゐた。
細面ほそおもてのキリリとした女振りで、化粧の濃さも尋常ではなく、夕櫻を眺めながら、自分の部屋の窓で、眞太郎の來るのを待つた、よこしまな誇りは、この凄まじい死顏に
誓約ちかった仲! ……よこしまの恋などではござりませぬ! ……それを横恋慕などと! ……
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ねえ支倉君、すべて不調和なものには、よこしまな意志が潜んでいるとか云うぜ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
惡く行けば、家事不取締のかどで、重いおとがめを受けまいものでもあるまいが、さうかと言つて、よこしまの怨みを構へて、身分あるものを暗討ちにするのは許し難い。
数人の侍臣に計らいましたところ、我が父押し切って異議申し立て、邪道の剣を得意とするは、心によこしまある証拠でござる、召し抱えご無用と申しましたれば、我が君にもその儀よかろうと
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
んかよこしまなことを念ずるような心持で、不思議に胸騒ぎに悩み続けたのです。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
よこしまの恋は浄化され、処女おとめのような純な恋に、今は帰っているのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それはかくとして、よこしまな官能の欲求に溺れて、罪悪の上に罪悪を重ねて行ったこの「法悦倶楽部」が、最後の日のポンペイのように、もろくも天火に焼き尽された、その日の凄まじい断末魔を
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)