遠眼鏡とおめがね)” の例文
またあの男と一緒に航海した者だってもやらねえさ。さて、あれぁいかにも仲間のビルだぞ、遠眼鏡とおめがねを抱えてね、おやおや、ほんとにな。
あれだけ張り上げれば、大川の向うへだって聞えまさア。遠眼鏡とおめがねの殿様も大あばたの奥方も、一から十まで聴いたに違いない
われながら迂濶うかつ千万、実は昨日、船を立つ時に、駒井氏から借用して来た「遠眼鏡とおめがね」というものが、ここにあるではないか。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その頃、小田原の城跡には石垣や堀がそのまま残っていて、天主台のあった処には神社が建てられ、その傍に葭簀張よしずばり休茶屋やすみぢゃやがあって、遠眼鏡とおめがねを貸した。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
坂の半程なかほどに、オランダ渡りと云った風で、お月様の顔を覗かせる、遠眼鏡とおめがね屋が商売をしていた。安物の天体望遠鏡を据えて一覗き十銭で客を呼んでいるのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四丈八尺位の高さだから大概あらましの処は見える。人間の五、六人は頭の中へ這入れるようにして、先様お代りに、遠眼鏡とおめがねなどを置いて諸方を見せて、客を追い出す。
何かしらと思って、宅助がトロリと眼をすえて見ると、舞台の手欄てすりにすえつけてある、遠眼鏡とおめがねという機械。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しまいに「本郷台町の三階から遠眼鏡とおめがねで世の中をのぞいていて、浪漫的ロマンてき探険なんて気の利いた真似まねができるものか」と須永から冷笑ひやかされたような心持がし出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沖から遠眼鏡とおめがねで望んだら、またたきする間も静まらず、海洋わだつみあおき口に、白泡の歯を鳴らして、刻々島根を喰削くらいけずらんず、怖しき浪のかしらおさえて、巌窟いわやの中に鎮座まします
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何事につけても身の軽いのが自慢だったそうで……天守台の屋根に漆喰しっくいのかけ直しをする時なぞは、殿様が遠眼鏡とおめがねで、その離れわざを御上覧になった位だそうで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あるなつ午後ごご外国人がいこくじんは、遠眼鏡とおめがねおきほうていました。すると、あちらの水平線すいへいせんおおきなくろふねとおるのでした。それは、一目ひとめで、このくにふねでないことがわかりました。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)
次に、久里浜で外国船が来たのを、十里離れて遠眼鏡とおめがねで見て、それを注進したという、あの名高い、下岡蓮杖しもおかれんじょうさんが、やはり寺内で函館戦争、台湾戦争の絵をかいて見せました。
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
鉄砲はもちろん遠眼鏡とおめがねをも用意し、昼も夜も油断なく警戒しているのである。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ね、親分、もとはと言えば遠眼鏡とおめがねが悪かったんですよ。あんな物がなきゃ、二人の女が殺されずにんだはずです」
「コレ、この遠眼鏡とおめがねで一度御覧下さいませ。イエ、そこからでは近すぎます。失礼ですが、もう少しあちらの方から。左様さよう丁度その辺がようございましょう」
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母は茶店の床几しょうぎに腰をかけて、新和歌しんわかうらとかいう禿げて茶色になった山をして何だろうと聞いていた。嫂はしきりに遠眼鏡とおめがねはないか遠眼鏡はないかと騒いだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
太郎たろう浜辺はまべって、わしのくれた遠眼鏡とおめがねおきほうをながめますと、ちょうど、わしのひとみのようにその眼鏡めがねは、いくとおとお海原うなばら景色けしきが、そのなかうつるのでありました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
洲崎すのさきの、もと砲台の下のいわの上に立って、しきりに遠眼鏡とおめがねで見ている人がありました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「やりきれねえなあ。どうか、わっしの立場も、少し察してやっておくんなさい。今、この遠眼鏡とおめがねからえらい手がかりを得たばかりなんで……まごついていると、取返しがつきあしません」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこでも見える遠眼鏡とおめがねが欲しい」
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
用人の禿頭はげあたまに三百両を叩き返して、サテと改まりましたよ、——遠眼鏡とおめがねで町娘を御覧になって、奉公に出せなんて無理を言うからこんなことになるんだ。
もし分らない事があったら、また電話で聞き合わしてもいいという通知であった。敬太郎はぼんやり見えていた遠眼鏡とおめがねの度がぴたりと合った時のように愉快な心持がした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふくろけてみますと、そのなかにはちいさな遠眼鏡とおめがねはいっていました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その手柄者は貴様ではない、高津の宮の遠眼鏡とおめがねだ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あたし、知っててよ。あんたがちま子さん好きだったこと。そして、いつか二人っきりの時、あんたがあの人につまらないこと云って、頬っぺたひっぱたかれたこと。あたし山の上から、遠眼鏡とおめがねでちゃんと見ていたのよ。……隠すことないわ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし東京へ修業に出たばかりの私には、それが遠眼鏡とおめがねで物を見るように、はるか先の距離に望まれるだけでした。私は叔父の希望に承諾を与えないで、ついにまた私の家を去りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は式が済むとすぐ帰って裸体はだかになった。下宿の二階の窓をあけて、遠眼鏡とおめがねのようにぐるぐる巻いた卒業証書の穴から、見えるだけの世の中を見渡した。それからその卒業証書を机の上に放り出した。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)