迂路うろ)” の例文
そんなことをうめきながら、迂路うろつきまわっているうち、源吉の頭の中には、何時の間にか、恐ろしい計画が、着々と組立られていた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その小鬼が、一晩じゅう雨に紛れてこの家のまわりを迂路うろついていた——祖母は、それを自分のお葬式のしらせであると取りました。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
此邊このへんまではるのだ。迂路うろつきまわるのですでに三以上いじやうあるいたにかゝはらず、一かう疲勞ひらうせぬ。此時このときすで打石斧だせきふ十四五ほん二人ふたりひろつてた。
「駄目だよ。お孃さまだつてお前さんに何もして上げることはないよ。今時分迂路うろつくなんて。ほんとにいやらしいことだよ。」
しかし己はこんな事を書く積りで、日記をけたのではなかった。目的の不慥ふたしかな訪問をする人は、ことさらに迂路うろを取る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
汽車は誠に縮地の術で、迂路うろとは思いながら時間ははるかに少く費用は少しの余計で行く路があって見れば、山路に骨を折る人の少なくなるのは仕方がない。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「一旦ここを逃げてから、どこをどう迂路うろついていたのか知らねえが、橋の上で若い侍と話していて、おれの足音を聞きつけると直ぐにまた逃げてしまった」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甚だしいソフィスチケーションの迂路うろを経由して偶然の導くままに思わぬ効果に巡り会うことを目的にして盲捜りに不毛の曠野こうや彷徨ほうこうしているような気がする。
二科展院展急行瞥見 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一方は秀鶴頭巾しゅうかくずきんに夜寒と人目をさけつつ、水門尻の袋地を頻りと迂路うろついている徳川万太郎。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此校ここを出て、大学を出て、諸方を迂路うろついている時に教えたのが、此処ここにいる速水君であります。速水君を教える時分は熊本で教員生活をしておった時で漂泊生ひょうはくせいでありました。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町外れから、曲りねった路や、立木の暗い下を迂路うろついて、与平治茶屋まで来た。ここで水を飲もうとすると、犬が盛に吠える、「誰だあ、やい」戸の中から寝ぼけ声が聞える。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
牧師は自分のすまつてゐる界隈に、乞食が迂路うろつかうなどとは夢にも思はなかつた。
「この頃よく家ん前を迂路うろついてるひとじゃないか。どうしたっていうのさ……」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私の親爺おやじは天気のいいのに、二三日あちこち浮かぬ顔して、仕事にも出ずに、近所の親類なんかを迂路うろついていたが(親爺は日傭稼ひやといであった。私の親爺は、なに一つ熟練した職業を知らなかった)
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
うちひと機嫌きげんそこなうてもこまりますと迂路うろ/\するに、らうこゝろおごりて、馬鹿婆ばかばゝめが、のやうに引割ひきさかうとすればとて、美尾みをものおや指圖さしづなればとてわかれるやう薄情はくぜうにてるべきや
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
PIMPの元締もとじめが映画的に活躍して、夜のピキャデリなんかを迂路うろついてるぽっと出の女や、ボア・ドュ・ブウロウニュを散策中の若奥さまや
しかし、私は自然の欲求で、ひどくみ、弱り、痛められた。本能は私を食物にでもありつけさうな住宅の周圍を迂路うろつかせてゐたのであつた。
どうしても凝乎じっとしてはいられなくなって、あてもない道を、まだ肌寒い風に吹き送られながら、防風の砂丘を越えて、野良犬のように迂路うろつき廻るのであった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この際もし車掌がある一つの主義を偏執してたとえば大通りばかりを選ぶとするとそれを徹底させるためには時にはたいへんな迂路うろを取らねばならぬような事があるだろう。
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どんな穴でものぼりならば好いとする。その代り下りなら引返して、また出直す事にする。そうして迂路うろついていたら、どこかの作事場さくじばへ出るだろう。出たら坑夫に聞くとしよう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この頃よく家ん前を迂路うろついてるひとじゃないか。どうしたっていうのさ……」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二里以上の迂路うろなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
先程まで女の乞食が居りましたで——きつとまだ迂路うろついてゐるかも知れません——おや、彼處に寢てるよ、起きろ! まあどうしよう、行かないか、畜生!
『どうした、じゃないよ。病人がこの夜更けにどこを迂路うろついてんだ、困るね——』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
神田の真ん中に迂路うろうろしていて、そう釣りの出来るはずもない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)