趣向しゅこう)” の例文
あるのこと、まち菓子屋かしやから使つかいがきて、みせ看板かんばんえるから、ひとつ趣向しゅこうらして、いいものをいてくれとたのまれたのです。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これからさきを聞くと、せっかくの趣向しゅこうこわれる。ようやく仙人になりかけたところを、誰か来て羽衣はごろもを帰せ帰せと催促さいそくするような気がする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、彼の滞在のために、にわかに囲った仮屋作りの八畳で、七月七日から十三日まで、七日のあいだ茶事を興行するゆえ、その趣向しゅこうをせよ、と命じた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おせんのはだかのぞこうッてえのは、まず立派りっぱ智恵ちえだがの。おのれをわすれて乗出のりだした挙句あげく垣根かきねくびんだんじゃ、折角せっかく趣向しゅこうだいなしだろうじゃねえか
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
酒を入れるより外に用事のない品だから、思い切って向島土手に埋めて供養塔を建てようという趣向しゅこうで——
そんなところが、あのお伽噺とぎばなしのつらい夫婦ふうふ別離わかれという趣向しゅこうになったのでございましょう……。
お國は人目をはゞかり庭口のひらき戸を明け置き、此処こゝより源次郎を忍ばせる趣向しゅこうで、殿様のお泊番とまりばんの時には此処から忍んで来るのだが、奥向きの切盛きりもりは万事妾の國がする事ゆえ
「きょうは、先生ご夫妻に、月見かたがた芝居をご覧に入れる趣向しゅこうなんです。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
夫婦に三人の子供あれば一日に少なくも白米一升五合より二升は入用なるゆえ、現に一月二、三斗の不足なれども、内職の所得しょとくを以てむぎを買いあわを買い、あるいかゆ或は団子だんご様々さまざま趣向しゅこうにてしょくす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ほどこしたりあるいは蝶貝ちょうがいちりば蒔絵まきええがいたりして趣向しゅこう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「どういうご趣向しゅこうでございました?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何とも不敵な趣向しゅこうだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その趣向しゅこうは寝ている余とはもとより無関係だから、知ろうはずもなかったが、とにかくこの議決が山荘でのもよおしに一異彩を加えた事はたしかに違ないと思った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また流行ともいえないほど、日常のものになりきっていたが、これに伴う趣向しゅこう数寄すきとか道具のぜいとか、いんすればおのずからどんな道にも余弊よへいの生じるのは同じことで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一つは活力節約の移動といって energy を節約せんとする吾人ごじんの努力、他の一つは活力を消耗せんとする趣向しゅこう、即ち consumption of energy である。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶道衆のひとりとして、茶事があればかならず趣向しゅこうを問われ、また平素にも信長の相手によく見える者ではあったが、この頃としては、その姿をここに見せたのは珍しいといえるのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首を入れた当人は台を引かれると同時に縄をゆるめて飛び下りるという趣向しゅこうである。果してそれが事実なら別段恐るるにも及ばん、僕も一つ試みようと枝へ手を懸けて見ると好い具合にしわる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なんぞまた、趣向しゅこうしているとみゆるな。信忠にも伝えたか。長門にも」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身どもは大阪表のある蔵屋敷づめの者であるが、同僚たちと語らって、何ぞ趣向しゅこうの変った連歌れんがの催しをやりたいというところから、この山の額堂ならば、雅味がみもあり、静かなことはこの上もないので
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「随分念の入った趣向しゅこうだね。いったい誰のかんがえだい」と兄が聞いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、みな尊氏の趣向しゅこうきょうじて、しばし風流陣の苦吟に遊んだ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)