賽錢さいせん)” の例文
新字:賽銭
仁三郎は全くの一人者で、金も係累けいるゐも、人に怨を買ふおぼえもなく、その上、賽錢さいせん箱が無事で、取られた物といつては、拜殿のすゞだけ。
『さうだ、神樣に頼みたいことがあつたら、前から拜むより、うしろからさう言つた方がよく聞えるぜ、お賽錢さいせん此處こゝからの方がくよ。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
野郎やらうおれいまげたお賽錢さいせんめアがツて、ふてやつだ。ぶンなぐるからおもへツ』とよばはる。
賽錢さいせんくだされつてますといへして、中田圃なかたんぼ稻荷いなり鰐口わにぐちならしてあはせ、ねがひはなにきもかへりもくびうなだれて畔道あぜみちづたひかへ美登利みどり姿すがた、それととほくよりこゑをかけ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「俺は今月淺草の觀音樣へ行つたのさ。思ひ切りお賽錢さいせんをあげて、半日拜んだ揚句、この縁談をうらなふつもりで御神籤おみくじいた——」
やうや鐵條網てつでうもうそとからお賽錢さいせんげたのを、へん男子をとこがノコ/\て、敬禮けいれいず、無遠慮むゑんりよに、あなはいつて加之あまつさへ賽錢さいせんんだのだから、先方せんばうになるとはらつのももつとも千ばん
「勝手に驚くが宜い。その神農樣のお使ひ姫に、仇つぽいのか、可愛らしいのが居るんだらう。一と月一兩二分のお賽錢さいせんぢや高過ぎるぞ、馬鹿だなア」
まへには此横穴このよこあなまへまで、參詣人さんけいにんせたのであるが、それでは線香せんかうくすべたり、賽錢さいせん投付なげつけたりするので、横穴よこあな原形げんけい毀損きそんするおそれがために、博士はかせ取調上とりしらべじやう必用ひつようから、先日せんじつ警察けいさつ交渉かうしよう
賽錢さいせん泥といふのは、何時の世にもあつたもので、器用なのは鳥黐とりもちで釣り、荒つぽいのは箱を打ちこはすのですが、見たところ、そんな樣子は少しもありません。
「こいつは又良い賣物になりますぜ親分、——不動樣が佛敵を刺し殺したとなると、賽錢さいせんがうんと——」
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
賽錢さいせん箱の中に、なにがしかの鳥目を投げ入れると、暫らく默祷をして居りましたが、何におびえたか、いきなり身をひるがへしてバタバタと逃げて行くのを、山門の前で
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
有難がる奴の方が餘つ程の箆棒べらぼうで、あつしには賽錢さいせん泥棒くらゐに踏んで相手にもしませんでしたよ
火伏ひぶせぎやうとか何んとか言つて、散々賽錢さいせん祈祷料きたうれうをせしめた上、四方から火を掛けさせ、煙が一パイになつた時を見測らつて護摩壇の拔け穴から、茶店の床下へ拔ける筈だつたんだ。
二階へ押し上がつて大盡風だいじんかぜを吹かせる安旗本の次男三男、大店おほだなの息子手合まで、お由良の愛嬌におぼれる者も少くなかつた中に、ガラツ八の八五郎も散々お賽錢さいせんを入れ揚げた講中の一人で
信者十萬、日々の賽錢さいせん祈祷料きたうれう、淺草の觀音樣をさへしのぐと言はれました。
「千兩箱はおろか、ろくなお賽錢さいせんもないよ」