おと)” の例文
然るに日本語では勉強家といふのに何のおとしめる意味もないやうに、義憤は當然の事であつて、少しも嘲る意味を帶びてはゐない。
当流比較言語学 (旧字旧仮名) / 森鴎外森林太郎(著)
おとすその評判の塩梅あんばいたる上戸じょうごの酒を称し下戸の牡丹餅ぼたもちをもてはやすに異ならず淡味家はアライを可とし濃味家は口取を佳とす共に真味を
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これを見た反長老派の連中は、さまざまに非難を浴びせると共に、ここでは懺悔の神秘が専断軽率におとし卑しめられていると告発した。
「丞相は国の大老である。一失ありとて、何で官位をおとしてよいものぞ。どうかもとの職にとどまってさらに、士気を養い、国を治めよ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで現代の火器を丁度鉄砲に対する弓くらいの価値におとしてしまうような次の時代の兵器が想像出来るであろうか。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かくの如きは実に人生を蹂躙侮辱し、人間の威厳をおとすものである。この寄生的制度は永久に没却すべきである。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
のみならず彼の漢詩論も盛唐をおとして漢魏かんぎげたのは前人の説を破つてゐるにもせよ、やはり僕等日本人には容易に首肯することは出来ないのである。
勿論もちろんこはくもなし、然るに奇なるかな世人は此博学の人々を学者なりとてエラク思ひ、学問は二の町なれど智慧才覚ある者を才子と称して賞讃の中におとす。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
否、一方でおとしめれば貶しめるほど、かえってそれは圓朝の人気へ油を注ぎ、火を放ち、果ては炎と燃え狂わすかと、赫々たるものとなりさかっていった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
信州の景色は『パノラマ』として見るべきで、大自然が描いた多くの絵画の中では恐らく平凡といふ側におとされる程のものであらう——成程なるほど、大きくはある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あの建武けんむの昔二条河原の落書らくしょとやらに申す下尅上げこくじょうする成出者なりでものの姿も、その心根のいやしさをもって一概に見どころなき者とおとしめなみする心持にもなれなくなります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
十二、三の時から私は勝手元かってもとで祖母の手伝いをさせられた。岩下家の後嗣あとつぎから女中におとされたのだ。
栄之丞としては見くびられたともおとしめられたとも、言いようのない侮蔑ぶべつこうむったように感じた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
室町時代の文化を何となくおとしめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の偏見であって、公平な評価ではない。我々はよほどこの点を見なおさなくてはなるまいと思う。
現に、時に誇る藤原びとでも、まだ昔風の夢になずんで居た南家の横佩よこはき右大臣は、さきおととし、太宰員外帥だざいのいんがいのそつおとされて、都を離れた。そうして今は、難波で謹慎しているではないか。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
数日後、子路がまた街を歩いていると、往来の木蔭こかげ閑人達かんじんたちさかんに弁じている声が耳に入った。それがどうやら孔子の噂のようである。——むかし、昔、と何でもいにしえかつぎ出して今をおとす。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはいかにも奇妙な陰謀に触れそうな口走りようだったので、私はあわてて彼の面前から引き退ったような次第だった……女王さまは、傲慢な心をいかにおとしむべきかを、よく御存じである。
この引用に先立って彼は種々の文を挙げて鬼神をおとしめているのである。彼は当時の仏教がこの世の吉凶禍福に心を迷わし、卜占祭祀を事とし、迷信邪教に陥っていることに対して鋭い批判を向けた。
親鸞 (新字新仮名) / 三木清(著)
こぞりてひとをおとしつゝ、 わかれうたげもすさまじき
文語詩稿 五十篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
心からむしりすて、自然をおとしめ、感覚をにぶらせ
つめたき人は永久とこしへのやらはれ人とおとし憎まむ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
決闘をやったために位をおとされ、のちにはまた元にかえると、今度はひどく放蕩ほうとうをして、比較的多額の金を浪費した。
あの建武けんむの昔二条河原の落書らくしょとやらに申す下尅上げこくじょうする成出者なりでものの姿も、その心根のいやしさをもつて一概に見どころなき者とおとしめなみする心持にもなれなくなります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
そのため、敗軍の常とされている軍令紀律の怠りは厳正にひきしめられ、また孔明自身が官位をおとして、ふかく自己の責任をおそれている態度も、全軍の将士の心に
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が同時に子路の率直で一本気な気質を、愛撫しつつからかっているのである。子路はもちろん孔子を心から尊敬しているから、孔子をこんなふうに言いおとすことには不服である。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
つめたき人は永久とこしへのやらはれ人とおとし憎まむ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
だがさうした解釈をしてみたところで、私はあの当時の私の生活の美しさや悩ましさを一寸たりとも上げもおとしもできないことを思ふ。それは存るものが存つたまでだ。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかも有若は、『論語』の他の諸篇に全然名前を現わしていないような、有名でない弟子なのである。有名でないのみならず後の伝説においてはむしろあらわにおとしめられている。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
りょうは三軍の最高に在りますために、たれも臣の罪は罰するものがありません。故に、自分みずから臣職のくらいを三等おとして、丞相の職称は宮中へお返し申しあげたいとぞんじます。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれもおぬしも、ともに開封かいほう東京とうけいにいた者同士よ。まずこのつら金印きんいん(額の刺青)を見てくれ。高俅こうきゅう一味の悪官僚のため、むじつの罪におとされて、北京ほっけいそつに追いやられた楊志という者
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちはいったい、どんな罪を犯して、ひらの軍卒などにおとされてきたのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また噂のとおりな才華を示したら、官爵かんしゃくおとして、遠地へ追い、この天下繁忙の時代に、詩文にのみ耽っているやからの見せしめとしたらよろしいでしょう。一挙両得の策というものではありませんか。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おや、東京とうけい楊志ようしが、ひら軍卒におとされてきたのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとし、いやもう、ひどい沙汰です
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)