詭計きけい)” の例文
どうして此処へ気が付かなかったのか、毒酒と薬酒の詭計きけいがあまりにも鮮かだったので、さすがの平次の叡智にも盲点があったのです。
周囲を取り巻いてる教会と法律との徒輩の——血走った眼をしてる狐狼ころうの——威嚇いかくと偽善的な詭計きけいとを、失敗に終わらせていた。
幾度か、他州の兵に襲われ、幾度か追手の詭計きけいに墜ちかかり、百難をこえ、ようやくにして代州の五台山下までたどりついた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「天晴れ見事の棒の手練、ほとほと感心仕つった。しかし悪獣の詭計きけいに掛かられ働き難儀と見申したれば、微力ではござれど助太刀申す!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
詭計きけいを用いて意図をさぐりとることは容易であろうが、自分は飽くまでも観察者の位置にとどまることを欲する者であるから、その方法は好まない。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
餌に向かって猛然と突進してくるが、その餌を口にして鈎のような詭計きけいな仕かけがあるのを知れば、直ちに口から吐き出して逃げる早さは疾風に似て眼にも止まらない。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
諸君はすでに、正当なる攻撃は一つとして彼の詭計きけいに敵し難い所以ゆえんを了解せられたに違いない。而して今や、唯一策を地上に見出すのみである。然り、ただ一策である。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そこに、人間生理の大原則を顛覆させた、犯人の詭計きけいが潜んでいるのは勿論のことである。ところで、〓形に抉らねばならなかった切創の目的と云うのは、ほかでもない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
先年日本で万有還銀ばんゆうかんぎん説を建てた老人があった。これはもとより不正な動機で企てられたのではないが、助手の詭計きけいのために、錬銀術師自身が欺かれて居たことが、後に明かにされた。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
われわれはその詭計きけいを見破ろうではないか。疑念をはさもうではないか。過去は迷信という顔を持ち、虚偽という仮面をかぶる。その顔を摘発し、その仮面を引きはごうではないか。
こんな詭計きけいを用いているうちに、一、二年の後には土地の者がみな彼に帰伏した。
そうして復讐ふくしゅうを計画し、詭計きけいによって賊をおびき寄せておいて皆殺しにする。
山中常盤双紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(実際吉右衛門きちえもんはこの場の演技によって自分に涙を催させた、)それほどますますこの後の率直でない、小さい卑しい詭計きけいが、この無邪気で善良らしい剣道の達人に矛盾するように見える。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
亡夫の予想通りに有名なる曲芸師の不良少年をそのへやに引っぱり込み不義の快楽に耽っていた結果、まんまと首尾よく亡夫の詭計きけいに引っかかったのが、この大爆発の真相に相違ないのである。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一説によれば chicane の略で裁判沙汰をもつれさせる「繊巧せんこう詭計きけい」を心得ているというような意味がもとになっている。他説によれば chic の原形は schick である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
いやらしい装置だ。あらゆる空間的角度からあらゆる空間現象を透視し、あらゆる時間的速度であらゆる時間的進行を展開さすのろうべき装置だ。恥ずべき詭計きけいだ。何のために、何のために、僕にあれを
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
どうして此處へ氣がつかなかつたのか、毒酒と藥酒の詭計きけいがあまりにもあざやかだつたので、さすがの平次の叡智にも盲點があつたのです。
「いや、軍の速度の遅いのは、大兵なるゆえばかりではない。孔明の詭計きけいを慎重に打診しながら進んでいるせいにもよるのだ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、正面から衝突したならば勝ち目があろうとは思われなかった。そこで勢いのおもむくところ詭計きけいを用いざるを得なかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは世にふ捕物ではないかも知れませんが、危險をはらむことに於ては、冷たい詭計きけいに終始した捕物などのではないと言へるでせう。
「さては、昨夜の山伏の詭計きけいだったか。浅ましくもまた、卑劣な賊めら。人を見損のうて、可惜あたら一命をむだにするな」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして彼らは土人どもが何らか不思議な詭計きけいを設けて彼らの隊長ホーキン氏を昨夜のうちに誘拐おびきだしどこか土人どもの本陣へ連れて行ったに相違ないと
その後で箱や袋などの附屬品を持込んで、せめて二百兩なり三百兩なりのまとまつた金にしようといふ、不思議な詭計きけいを思ひ付いたのです。
「なんで、かような大事に、虚言きょげんを構えましょうや。山攻めとは、怖れながら、間近の敵をいつわ詭計きけいにござりまする」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこれは詭計きけいであって、内心ではたいして驚かなかった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは世にう捕物ではないかも知れませんが、危険をはらむことにおいては、冷たい詭計きけいに終始した捕物などの比ではないといえるでしょう。
「要路は断ち、城はつつみ、来れば応じ、敢えて追わず、構えて、滝川の誘いに乗って、老巧な詭計きけいにかかるな」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詭計きけいのためとは云いながら、その城が燃えているのである。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井筒屋久太郎は愚痴ぐちをこぼすのです、五十年輩の分別者らしい男ですが、商賣の道には長けて居ても、惡者の詭計きけいにまでは目が屆かなかつたでせう。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
雷火らいか炸裂さくれつは、詭計きけいでもなんでもない。怪人かいじん呂宋兵衛るそんべえが、ふところにめておいた一かい強薬ごうやくを、祭壇さいだんに燃えのこっていたろうそくへ投げつけたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなれば手段を選ばない。あらゆる詭計きけいを施してやれ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うして源次郎の巧妙な詭計きけいも、門太郎の執拗しつあうな情熱も、みにくい下男のひたむきな純情に押し流されてしまつたのです。
しかしまた宴楽のあいだには、外交の詭計きけい、私交の虚実、人物の試胆したん、戦不戦の打診など、善悪あらゆる機微のものも美味声色を仮りて入り交じっている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詭計きけいでござるよ、油断はならない」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人の物を自分の物のように発表する人こそあれ、自分の手柄の半分を、かつて存在したこともない故人に帰するのは、なんという皮肉な詭計きけいであろう。
そうした空気において、たまたま周魴しゅうほう詭計きけいが行われたので、それを口火として、時を移さず魏呉の戦端がひらかれたものと、正しくは観るべきものであろう。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それが詭計きけいの第一だ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次の説明して行くのを聽くと、東海坊が詭計きけいの裏を掻かれて、猛火の中に死んだ經緯いきさつ、一點の疑ひもありません。
その少女のはなしで、前後ぜんご事情じじょう、うらぎり者の毒水どくすい詭計きけい咲耶子さくやこのはたらいたことまたそのためにらわれとなったことなど、すべて明らかに知ることができた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次の説明して行くのを聴くと、東海坊が詭計きけいの裏を掻かれて、猛火の中に死んだ経緯いきさつ、一点の疑いもありません。
宋江は、敵の詭計きけいを怖れた。周囲も彼へ、ここにかまわず、落ちろとすすめる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金と詭計きけいとで納得させ、とうとう琢堂にとっては一代の恥辱ちじょくとも言うべき極彩色の普賢菩薩ふげんぼさつを作らせたのでした。
「父上、父上。——敵の詭計きけいに相違ありません。何で退けと仰せられますか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑怯な詭計きけいを設けて、ビルディングに引きつけその留守を狙って徹底的に家を荒して行ったのでしょう。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
朝から午まえは霧が深く、上杉勢の方向がまったく知れないこともその一因だが、何よりは、次の行動に移るに当って、上杉方にどんな詭計きけいがあるかも知れないと大事に大事をとったこと。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事情を知っている若旦那兵太郎の口をふさぐために、辰次に殺させたことから足がつき、「盗まれた御朱印が偽物」と平次の智恵で彦太郎が披露した詭計きけいに引っかかり
が、その原因は、勾当こうとう内侍ないしの色香でなく、円心の詭計きけいでもない。一に彼の尊氏観が甘かったところに起因し、尊氏が打ッて逃げた“退きの布石ふせき”を読み違えていたことに重大な錯誤さくごがある。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事情を知つてゐる若旦那兵三郎の口をふさぐために、辰次に殺させたことから足がつき、『盜まれた御朱印が僞物』と平次の智惠で彦太郎が披露した詭計きけいに引つかゝり
と見るまに、ああ、そもなんの詭計きけいぞ、足もとから轟然ごうぜんたる怪火の炸裂さくれつ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捕物小説の一つの傾向は、単なる殺人の技術と、その詭計きけい解釈の小説であってはいけないために、法の適用に、一つのユートピア的な自由さを持たせた点を特色とする。