どうして此処へ気が付かなかったのか、毒酒と薬酒の詭計があまりにも鮮かだったので、さすがの平次の叡智にも盲点があったのです。
幾度か、他州の兵に襲われ、幾度か追手の詭計に墜ちかかり、百難をこえ、ようやくにして代州の五台山下までたどりついた。
「天晴れ見事の棒の手練、ほとほと感心仕つった。しかし悪獣の詭計に掛かられ働き難儀と見申したれば、微力ではござれど助太刀申す!」
詭計を用いて意図をさぐりとることは容易であろうが、自分は飽くまでも観察者の位置にとどまることを欲する者であるから、その方法は好まない。