覚醒かくせい)” の例文
旧字:覺醒
附記 明治四十四年十月、平塚らいてう(明子)さんによって『青鞜』が生れたのは、劃期的な——女性覚醒かくせい黎明れいめいの暁鐘であった。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
忌むべき矛盾である。フランスは諸民衆を窒息せしめんがためにではなく、反対にそれを覚醒かくせいせしめんがために作られてるのである。
浅草でわかれた、あの青年ではなかったかしら。とにかく、霧中の記憶にすぎない。はっきり覚醒かくせいして、みると、病院の中である。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
心の一面に堕した見方に対して、革命的覚醒かくせいを促した多くの経済学者たちの驚歎すべき業績について、誰も盲目であってはならぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、こんな娘たちの深い窓のところへも、この国全体としての覚醒かくせいを促すような御一新がいつのまにかこっそり戸をたたきに来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日のカトリック教は、それを覚醒かくせいさしそれに生命を与えんとする人々よりも、敵のほうをいっそう容易に容赦するかもしれない……。
高官たちも殿上役人たちも困って、御覚醒かくせいになるのを期しながら、当分は見ぬ顔をしていたいという態度をとるほどの御寵愛ちょうあいぶりであった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
悪人ばらに、いささかの覚醒かくせいを与える効果はあるだろうが、それでお家の禍根を断つというのでもない。事をするのは簡単だ。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たいていあの荒療治を一度受けると、数時間は昏睡こんすいし、覚醒かくせいした後も記憶がはっきりしなくなるが、甚五はそうでなかった。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ホップ夫人は最後の言葉とともにふたたび急劇に覚醒かくせいしたり。我ら十七名の会員はこの問答の真なりしことを上天の神に誓って保証せんとす。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日本の対支外交や排日問題などについて意見を述べたり、英米の対支文化事業や支那シナ女性の現代的覚醒かくせいを驚嘆していた。支那の陶器の話も出た。
小唄のレコード (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
かれが取ることを怠ったこの処置、これは十中八九、いい軽快な楽しい結果を、有効な覚醒かくせいを持ちきたらしたであろうに。
愛に対する本能の覚醒かくせいなしには、縦令男女交際にいかなる制限を加うるとも、いかなる修正を施すとも、その努力は徒労に終るばかりであろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とにかくこのたびの災害を再びしないようにするためには単に北海道民のみならず日本全国民の覚醒かくせいを要するであろう。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
博士は大隅の覚醒かくせいに、なんの愕きの色もあらわさなかった。そして躊躇ちゅうちょするところもなく、オメガ光線をさえぎってあるシャッターのぼたんに手をかけた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし帰ったところでその救いは到底得られそうもないのみか、ただ果てしない覚醒かくせいの闇になおも身を任しつづけるよりないことは目に見えていた。
人やゝもすれば、人生を夢幻と云ひ、空華くうげと云ふ、一念ここに至れば、空華の根柢に充実せる内容あり、夢幻の遷転影裡せんてんえいり猶且なほか煢然けいぜんたる永久の覚醒かくせいあり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私の背後で、病人のすこししゃがれた声がした。それが不意に私をそんな一種の麻痺まひしたような状態から覚醒かくせいさせた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
覚醒かくせいして苦しんでるのよりは麻酔した寝顔のほうが見たい。赤子みたいに力なくうめいている。母よ、母よ。膝のうえに手をとっていても母は刻刻に私を離れてゆく。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
代助は昨夕ゆふべの夢を此所こゝ辿たどつてて、睡みん覚醒かくせいとのあひだつなぐ一種の糸を発見した様な心持がした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おそらく御自分の最後の日を、眼に見ぬうちは、将軍家の覚醒かくせいなど、望み得ないことでしょう」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が危篤きとくの知らせを受けて精神病院へ行ったのはクリスマスの前夜であった。一日の十二時間は昏睡こんすいし、十二時間は覚醒かくせいしている。昏睡中は平熱で、覚醒すると四十度になる。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「僕ももう少し早く覚醒かくせいすればよかったのだ。今じゃもうおそい。」と種田は腰巻の干してある窓越しに空の方を眺めたが、思出したように、「明間あきまがあるか、きいてくれないか。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日をもって覚醒かくせいし月をもって進歩し、議論と製作と年をもって変化す、昨年の標準は決して今年の標準にあらず、今年の標準もとより明年の標準なるあたわず、議論に実行し製作に経験し
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さうでもなければ後妻にまかれてゐる父を覚醒かくせいさせ、そして真実の親らしいものを父から呼び起すことは出来ないと思つた。今度家を出たら、生涯家に帰らないやうにしたいとさへ思つたのである。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
彼女は、明治末期の、女性覚醒かくせい期に生れあわせて、彼女は大きな理想のもとに、それまでの女性とは異なる、生活方針を創造しようとした。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「耳を澄まして見ろ、」となお様子をうかがっていたアンジョーラはにわかに叫んだ、「パリーが覚醒かくせいしてきたようだ。」
すなわち、フランス人の精力の覚醒かくせい、オリヴィエがあらかじめ告げていた勇壮な理想主義の火種、などのことを話した。
もしこの超人を、三千万ボルトの電気によって覚醒かくせいさせることができなかったら、それで谷博士の試作人造生物X号は、ついに失敗の作となるわけだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
覚醒かくせいしてみると、じぶんはもう四十四歳……財産も愛人も叔父にうばわれ、体力は衰え、能力は退化し、人間並の生活をすることさえおぼつかないのに
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何よりもまず、科学の威力に依って民衆を覚醒かくせいさせ、これを導いて維新の信仰にまで高めるのでなければ、いかなる手段の革命も困難を極めるに違いない。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だがこのよき意志と覚醒かくせいとから何が導かれているか。個人が示し得たものを真の工藝と呼び得るだろうか。それは工藝を離れて美術の道となりはしまいか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すくなくもこの国学者の運動はまことの仏教徒を刺激し、その覚醒かくせいと奮起とを促すようになった。いかんせん、多勢寄ってたかってすることは勢いを生む。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二面には富口とみぐちという文学博士が「最近日本におけるいわゆる婦人の覚醒かくせい」という続き物の論文を載せていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
圭介は漸く覚醒かくせいした人になり始めた。同時に彼には、今までの彼自身が急に無気味に思え出した。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのころ覚醒かくせいとか新しい生活とかいう文字もんじのまだない時分でした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
覚醒かくせいいきどおる不眠症の荊棘いばら
君たちのおかげでわが民族の意識は覚醒かくせいしたのだ。幸福よりも自己の信念のほうを取るためになさなければならなかった努力に、われわれはよく報いられた。
一方、前記要保護人は、収容後十時間をるも未だ覚醒かくせいせず、体温三十五度五分、脈搏みゃくはく五十六、呼吸十四。その他著しき異状を見ず。引続き監視中なり。——”
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今さら、過ぐる長州征伐の結果をここに引き合いに出すまでもないが、あの征伐の一大失敗が徳川方を覚醒かくせいさせ、封建諸制度の革新を促したことは争われなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
覚醒かくせいしかけて、一ばんさきに呟いたうわごとは、うちへ帰る、という言葉だったそうです。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その光と影との中に、新しくまた古く、おかしくまた悲しく、年少でまた老年である一小社会があって、目をこすっていた。復起と覚醒かくせいとほど互いによく似寄ってるものはない。
抹茶の堕落を慨して、新たに煎茶せんちゃの道を開こうとした彼の覚醒かくせいに敬意を払うことはできる。だがそれは思想的価値であって、ただちに作品そのものの価値ということはできない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なかなかついえのある事を思わず、またそうした苦悩をしのんでも、志した道に精進して、婦人の覚醒かくせいに力をつくされる、社会的な、広義な愛を——新人の味わう悲痛を知ろうとしないのに
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし偶発的に起ったこの瞬間の覚醒かくせいは無論長く続かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは文久改革以来の慶喜の素志にもより、一つは長州征伐の大失敗が幕府の覚醒かくせいを促したにもよる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんという猛然たる生気が、汝の胸のうちにうなってることぞ! なんという覚醒かくせいの願望ぞ!
そして宿命の避くべからざる葛藤かっとうに触るるや直ちに、マリユスは覚醒かくせいするであろう。
科学の威力にって民衆を覚醒かくせいさせ、新生の希望と努力をうながし、やがてはこれを維新の信仰に導く、なんてのは三段論法にさえなっていないでしょう。恥かしい工夫をしていたものです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は覚醒かくせいしたことの幸運を感謝した。もうすこしで、彼自身でもって屍体を、もう一個やすところだったのである。まあよかったと思ったものの、その後で、すぐ大きな不安が押しかけて来た。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)