見台けんだい)” の例文
滔々とうとうたる天下その師弟の間、厳として天地の如く、その弟子は鞠躬きくきゅうとして危座し、先生はしとねに座し、見台けんだいに向い、昂然として講ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
算木さんぎ筮竹ぜいちく、天眼鏡、そうして二、三冊のえきの書物——それらを載せた脚高あしだか見台けんだい、これが店の一切であった。葦簾よしずも天幕も張ってない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見台けんだいの横に番傘をしばりつけ、それで雪を避けている筈だが、黒いマントはしかし真っ白で、眉毛まで情なく濡れ下っていた。
雪の夜 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
時運の来ぬということは仕方のないもので、殊勝な彼女らの旗上げは半年目で火災に逢い、一座は三味線も見台けんだいも、肩衣かたぎぬもみんな焼失してしまった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
九時二十分頃、呂昇が出て来て金屏風きんびょうぶの前の見台けんだい低頭ていとうした。びきは弟子の昇華しょうか。二人共時候にふさわしい白地に太い黒横縞くろよこしま段だらの肩衣かたぎぬを着て居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なほ其前そのまへさかのぼつてまうしますると、太閤殿下たいかふでんか御前ごぜんにて、安楽庵策伝あんらくあんさくでんといふ人が、小さいくは見台けんだいの上に、宇治拾遺物語うじしふゐものがたりやうなものをせて、お話をたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
見台けんだいを前にして何かを読んでいた男の人は、女房の話しかけたのをこう受けてちらと見向きますと、余念なくきものを縫うている女房の襟元えりもとのあたりが見えます。
まず大阪の前座さんは、へたりといって下駄箱のような見台けんだいを前へ置き、拍子木を張扇みたいなものでカタカタカタカタカタカタと止め途なしにそれを引っ叩く。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
幸ひ電話には見台けんだいのやうに蓋のなぞへになつた箱もついてゐる。彼はその箱に本を載せると、目は活字を拾ひながら、手は出来るだけゆつくりと強情にベルを鳴らし出した。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
金五郎は、見台けんだいのうえに、うつぶせになった。浄瑠璃本のうえに、タラタラと、血が落ちた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
はッ! とすると、玄蕃、謡本の見台けんだい蹴倒けたおして、部屋の中央に突っ立っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「例によって日吉丸三段目さ。君、立派な見台けんだいを拵えたよ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、次の間の見台けんだいの前へ坐った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
三味線が二張に見台けんだい。そのほかは壁の隅に天理王を祭った白木の小机があるだけ。私はお稽古を待っているうち中、うらさびしさにボンヤリしていた。
「早う、お玉の席をこしらえてやるがよい、その毛氈もうせんを敷いて、見台けんだいるならば見台を」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中央に、二人の男女、向かって左に、肩衣かたぎぬをつけ、見台けんだいに両手をついて、頭を下げているのは金五郎、右に太枠ふとざおの三味線を前に置き、これもお辞儀をしている、銀杏返しの女はお京。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
吉田国五郎の人形芝居は例へば清玄せいげん庵室あんしつなどでも、血だらけな清玄の幽霊は大夫たいふ見台けんだいが二つに割れると、その中から姿を現はしたものである。寄席よせの広瀬も焼けてしまつたであらう。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さても凡夫の浅猿あさましさ、しかし恥を知らずと、「孔子いわく、志士仁人は身を殺して仁を為す有り」とか、「孟子いわく、生をてて義を取る者なり」とかいいて、見台けんだいを叩いて大声する儒者もある。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
無論、自分もその一方の、熊の皮か何かを敷いた一席に座を構えているので、あたりを見れば短檠たんけいが切ってあって、その傍らに見台けんだいがある、見台の上には「孫子そんし」がのせてある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
後見役こうけんやくには師匠筋の太夫、三味線きがそろって、御簾みすが上るたびに後幕うしろまくが代る、見台けんだいには金紋が輝く、湯呑ゆのみが取りかわる。着附きつけにも肩衣かたぎぬにもぜいを尽して、一段ごとに喝采かっさいを催促した。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
見台けんだいに似た台を取り寄せさせ、新聞紙で、即製の肩衣かたぎぬをこしらえて、金五郎は正面の座についた。舞台はない。太枠もないので、徳弥とくやという芸者に、普通の三味線を持たせて、左にはべらせた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その前へ毛氈もうせんを二枚敷いて、床をかけるかわりにした。鮮やかなの色が、三味線の皮にも、ひく人の手にも、七宝しっぽう花菱はなびしの紋がえぐってある、華奢きゃしゃな桐の見台けんだいにも、あたたかく反射しているのである。
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)