舳艫じくろ)” の例文
こうなった以上、どのみち、舟を戻して興を新たにするよりほかはないでしょう——言わず語らず舳艫じくろはしめやかにめぐらされました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
材木や伊豆石や、城普請しろぶしんの用材をつんだ船が、誇張していえば、舳艫じくろをつらねてといえるほど、江戸湾に、それぞれの藩旗を並べていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
韻ハ水風ニただよヒ、経廻けいかいノ人、家ヲ忘レザルハナシといい、釣翁ちょうおう商客、舳艫じくろ相連ナリテほとンド水ナキガ如シ、蓋シ天下第一ノ楽地ナリともいっている。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いまとほからず橄欖島かんらんたうのほとりで櫻木大佐さくらぎたいさ對面たいめんし、それより本艦ほんかん」と櫻木大佐さくらぎたいさ電光艇でんくわうていとが舳艫じくろあひならんで颯々さつ/\たる海風かいふう帝國軍艦旗ていこくぐんかんきひるがへしつゝやが
しこうして果然かぜん嘉永六年六月三日米国軍艦は、舳艫じくろふくみ、忽然こつぜんとして天外より江戸湾の咽吭いんこうなる浦賀に落ち来れり。六無斎子平ろくむさいしへいが、半世紀前に予言したる夢想は、今や実現せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
幅はのみひろからぬ川ながら、船の往来のいと多くして、前船後船舳艫じくろふくみ船舷相摩するばかりなるは、川筋繁華の地に当りて加之しかも遠く牛込の揚場まで船を通ずべきを以てなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人目を避け他聞をはばかって、奥まった片隅に会議の席をしつらえ、コン吉とタヌが待ち構えていると、ガイヤアルを先登にして三人の山案内ギイドが、威風堂々舳艫じくろふくんで乗り込んで来た。
まことに百間橋を七台の自動車が舳艫じくろ相銜あいふくんで渡るなぞは開闢かいびゃく以来の出来事だった。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
広海屋ひろうみやが、数艘の大船の舳艫じくろをあい接させて、西の貯蔵米をまわしはじめたのを切ッかけに、富裕の商人がこの流儀を学んで、市民の心を得ようと企てたので、急に米価は墜落し、江戸の民衆は
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すでに、この春には、大挙して、毛利家の水軍が、舳艫じくろ相啣あいふくんで来援らいえんにまいると、正しく我へ誓紙を入れて約束していることだ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其ノ荊州けいしゆうヲ破リ、江陵ヲ下リ、流レニしたがツテ東スルヤ、舳艫じくろ千里、旌旗せいき空ヲおほフ、酒ヲソソイデ江ニのぞミ、ほこヲ横タヘテ詩ヲ賦ス、マコトニ一世ノ雄ナリ、而シテ今いづクニカ在ル哉
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
盛庸等之を破る。帝都督ととく僉事せんじ陳瑄ちんせんを遣りて舟師しゅうしを率いて庸をたすけしむるに、瑄却かえって燕にくだり、舟をそなえて迎う。燕王乃ち江神こうじんを祭り、師を誓わしめて江を渡る。舳艫じくろあいふくみて、金鼓きんこおおいふるう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「呉侯の御旗下、その余の本軍は、すでに舳艫じくろをそろえて溯江そこうの途中にあり、ここ前線をへだつこと、すでに八十里ほどです」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舳艫じくろをそろえて、摂津の沿岸に上陸して来たら、ひとり荒木や高山や中川清秀にとどまらず、彼方此方に、離反の旗幟きしをかざす者が相継いで
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黎明れいめいと共に、出陣のは鳴った。長沙の大兵は、城門から江岸へあふれ、軍船五百余艘、舳艫じくろをそろえて揚子江へ出た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数千の兵船が、舳艫じくろをならべて遡航そこうしつつあるとのこと。また、三江の江岸一帯、前代未聞の水寨すいさいを構築しています。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、陸上の騎馬歩兵が、弓弦ゆづるを並べて待ちかまえると、海上の船列はあざけるように敵をらして、その舳艫じくろを東へ東へ、移動して行ってしまう——
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべて舳艫じくろを、敵の和田ノみさきから兵庫へ向けて、左方の陸地を望みながら、徐々に、接岸をさぐッて行く。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それより前に、孫策は、兵船数十艘をととのえて、長江にかみ出て、舳艫じくろをつらねて溯江そこうして来た。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蹴上けあげを越えた蜿蜒えんえん甲冑かっちゅうは、さらに、矢走やばせで待ちあわせていた一軍を加え、渡頭の軍船は、白波をひいて湖心から東北に舳艫じくろをすすめ、陸上軍は安土その他に三晩の宿営を経て、十日
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(今に、毛利の水軍が、海路うなじ舳艫じくろ相銜あいふくんで東上してくる。また陸からは、吉川きっかわ、小早川の精鋭が播州を席巻せっけんし、秀吉をやぶり、諸豪を麾下きかに加えて、怒濤のごとく中央へ攻めてくる!)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言っているところへ、一角のあしから、物見の兵が「——大変だっ」と、急を告げて来た。暁闇ぎょうあんもやのうちから、泊兵の水軍が舳艫じくろをならべて、これへ接岸して来る模様だ——と絶叫する。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舳艫じくろを連ねて北進して行く船は、行けども行けどもさかのぼっている。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして舳艫じくろはそのままなお梁山泊へと進んでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、舳艫じくろをしのばせて襲いかけた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)