臥所ふしど)” の例文
樣々な懊惱あうのうかさね、無愧むきな卑屈なあなどらるべき下劣な情念を押包みつゝ、この暗い六疊を臥所ふしどとして執念深く生活して來たのである。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あの方が臥所ふしどからお起きになつて、雪のやうに白い靴下をお穿きになるため、あの可愛らしいおみ足をおのせになる足臺も見たい……。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
左門さきにすすみて、八九南のまどもとにむかへ、座につかしめ、兄長このかみ来り給ふことの遅かりしに、老母も待ちわびて、あすこそと臥所ふしどに入らせ給ふ。
ある時は支度金を取って諸侯のしょうに住み込み、故意に臥所ふしどいばりして暇になった。そしてその姿態は妖艶ようえんであった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
汝もし信ぜずば今夜新しい葉をむしろの下にいて、別々に臥して見よ、明朝に至り汝の榻下とうかの葉は実するも、鬼の臥所ふしどの葉はむなしかるべしと言うて別れ出た。
しか各々おの/\臥所ふしどに入たりけるさて翌日よくじつにも成ければ武藏屋長兵衞并に長八は後藤先生へ尋ね行んと思ひ主人あるじの長兵衞へ何ぞ土産みやげをと相談さうだんしけるに長兵衞は遠方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妻の生みし我子は、生れてより十四日目になり居り、矢張り妻の臥所ふしどの側なる揺籃の内に、是も眠り居り候。
そうしてとうとうそのまま、そんな臥所ふしどでもない所で、私はその夜はまんじりともせずに過ごしてしまった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
再び障った音は、ほとんどたたいたというべくも高い。たしかに人ありと思いきわめたるランスロットは、やおら身を臥所ふしどに起して、「たぞ」といいつつ戸を半ば引く。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「長羅よ。我は爾のために新らしき母を与えるであろう。爾は臥所ふしどへ這入って、戦いの疲れをいこえ。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
臥所ふしどにはいってからも、その夜はなかなか眠ることができなかった。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木原よりふく風のおとのきこえくるここの臥所ふしどのみひとついず
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人呼んで天狗の変化へんげといい、夜の臥所ふしどを見た者はなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこを永遠に冷たい臥所ふしどにしておられますよ。
夕ざれば臥所ふしどに入りて、このまだ犯されぬ
われらとてつち臥所ふしどの下びにしづみ
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
臥所ふしどありて人はいぎたなく眠れり
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
三日目の朝、われと隠士のねむり覚めて、病む人の顔色の、今朝けさ如何いかがあらんと臥所ふしどうかがえば——らず。つるぎの先にて古壁に刻み残せる句には罪はわれを追い、われは罪を追うとある
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
臥所ふしどの上に倒れた二人は、しばらく死骸しがいのように動かずにいたが、たちまち厨子王が「姉えさん、早くお地蔵様を」と叫んだ。安寿はすぐに起き直って、はだ守袋まもりぶくろを取り出した。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「彼は路に迷える旅の者。彼に爾は食を与えよ。彼のために爾は臥所ふしどを作れ。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
己は恐る恐る身を臥所ふしどに倒す。
芸者が臥所ふしどへ来た時、君は浜路はまじに襲われた犬塚いぬづか信乃しののように、夜具を片附けて、開き直って用向を尋ねた。さて芸者の詞を飽くまで真面目に聞いて、旨く敬して遠ざけたのである。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「父よ、我は臥所ふしどを欲する。我をゆるせ。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
母はこれに臥所ふしどうつして喜んだが、間もなく世を去った。今わたくしが書斎にしているのがこの部屋で、壁は中塗のままである。昔崖の上の小家の台所であった辺が、この部屋の敷地である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
少焉しばらくして猫は一尾の比目魚かれひくはへて来て、蘭軒の臥所ふしどかたはらに置いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)