はづ)” の例文
その時T—が、いつもの、私を信じ切つてゐるやうな少しはづかしいやうな様子をして部屋の入口に現はれた。そしてつかつかとそばへ寄つて来た。
和解 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
友達に冷笑ひやかされるはづかしさ、家へ歸つて何と言つたものだらうといふ樣な事を、子供心に考へると、小さい胸は一圖に迫つて、涙が留度もなく溢れる。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
雜木林ざふきばやし其處そこ此處こゝらに散在さんざいして開墾地かいこんちむぎもすつとくびして、蠶豆そらまめはな可憐かれんくろひとみあつめてはづかしさうあいだからこつそりと四はうのぞく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
婦人をんなはよく/\あしらひかねたか、ぬすむやうにわしさつかほあからめて初心しよしんらしい、然様そんたちではあるまいに、はづかしげにひざなる手拭てぬぐひはしくちにあてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女の返事ははづかしさうである。のみならず出したのも朝日ではない。二つとも箱の裏側に旭日旗きよくじつきを描いた三笠である。保吉は思はず煙草から女の顔へ目を移した。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私はかう云ふ種類の女に対しても常にある憧憬どうけいをもつてゐる。もし私の憧憬する幻をもととして、私にあつた今夜の女の心持を想像して見ると、女は屹度きつとはづかしいと思ふであらう。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「何だか可笑をかしいのねエ」と、梅子ははづかしげにホヽ笑みつ「一昨々年の四月の初め、丁度ちやうど桜の咲きめた頃なの、日曜日の夜の説教をなすつたのが——銀子さん、私、何だか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「お冬のやうな若くてはづかしい盛りの娘の寢て居るところへ入つて、お冬に油斷をさせて、耳打ちでもするやうな恰好で、あんなひどい殺しやうをするのは、女でなきや出來ないことだ」
「えゝ、」青年は少しはづかし相に云つた。「造花を売りに。」
器量だけは、これでも、はづかしくないつもりですから……。
頼母しき求縁(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「六でおます。」とはづかしさうに、袖で口をおほうた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
はづ二人ふたり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
きまはづかしさうに離れて行くのも好い気持ではなかつたが、それよりも左褄ひだりづまを取つてゐたつての自分に魅力はあつても
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『やあ。』とお八重は思はず驚きの聲を出したので、すぐにはづかしくなつて、顏を火の樣にした。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『やあ。』とお八重は思はず驚きに声を出したので、すぐにはづかしくなつて、顔を火の様にした。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
むしろその反対に、大人の前に坐つてゐても、はづかしがりも、怖れもしなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)