細々ほそぼそ)” の例文
岡田おかだは、そうこたえて、自分じぶんもそこの地上ちじょういているはなをとめました。すると、どこかで、細々ほそぼそむしこえがしたのです。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
静子は、恥しさと悲しさの為に、あのまつげの長い目をふせて、そこに一杯涙さえためて、小さな声で細々ほそぼそと語るのであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
細々ほそぼそとした指と指を綾に組んで、前髪の蔭からじっと熱ッぽい流しを向けた。もっと人目のない所で、しみじみと話したいようなふうも溢れている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、私は私自身の薄弱な力の許す限り周囲に打克うちかって、細々ほそぼそながら自己の経済的独立を建てて来ました。
牛一頭持てぬ細々ほそぼそした納屋なや暮しで、主人が畑へ出かけた留守中、お内儀かみさんが紙風船などりながら、私ともう一人やはり同じ年に生れた自分の子に乳をやっていたのだが
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これでは落魄らくはくと云ってもよいような細々ほそぼそとした暮しをしていたとしか思われなかったが、それと云うのも、故人が芸術的良心に忠実で、昔からの舞の型をくずすことを極端にきら
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
細々ほそぼそながらひと縫物ぬいものなどをさせてもらって、そのそのごしてはやくも十八ねん
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
秋もやや末になって、里の人たちが朝起きて山の方を見ると、この岩屋から細々ほそぼそと煙が揚がっている。ああもうテンバがきているなどという中に、子を負うた女がささらや竹籠たけかごを売りにくる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
で、細々ほそぼそながら、まずどうにかやって行く……その内、縁日の商いの道が分るにつけ、いろいろまた親子で工夫をして、一生懸命に働いては、大勢の一家を子供の腕一本でやって行きました。
その黒い糸のようなものが、見よ、今恩田のトラックの尾端から、闇夜の道路に細々ほそぼそと筋を引いているではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しもに、はやくもよわてた蟋蟀こおろぎであろう。床下ゆかしたにあえぐ細々ほそぼそかれた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
先生せんせいは、じっと、はや両親りょうしんわかれた小原おばら細々ほそぼそとしたからだていられました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
細々ほそぼそとした女の声は、それが余りに低いために、殆ど聞き取れぬほどでありましたが、聞えぬ所は想像で補って、やっと意味を取ることが出来たのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みずくきのあとも細々ほそぼそと、ながしたようにきつらねた木目もくめいた看板かんばんに、片枝折かたしおりたけちた屋根やねから柴垣しばがきへかけて、葡萄ぶどうつる放題ほうだい姿すがたを、三じゃくばかりのながれにうつした風雅ふうがなひとかま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)