紅筆べにふで)” の例文
如何いかなるくはだてか、内證ないしようはずわざ打明うちあけて饒舌しやべつて、紅筆べにふで戀歌こひうた移香うつりがぷんとする、懷紙ふところがみうや/\しくひろげて人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
で、ふとそのあしを見た少女は、急いで籠の外のうぐいすを押えた。紅筆べにふでのような鶯の脚に小さな紙片がしばってあるのだ。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中には雁皮がんぴに包んだ白粉と、耳掻き、爪切り、紅筆べにふでなど、艶めかしい小道具の入つてゐるのを、一と通り調べて、そのまゝ、お葉の手に返します。
「さいぜんから見ていたが、一人の客へは、普門品ふもんぼんの一句へ、紅筆べにふで蓮華散れんげちらしを描いて与え、老婆の客へは、空也和讃くうやわさんの一章を、葦手あしで書きにしてやったではないか」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女にすごさを求めるのは無理であろうが、紅筆べにふでをかんで、薄墨のにじみ書きに、思いあまる思案のそこをうちあけた文を繰広げてゆくような、纏綿てんめんたる情緒と、乱れそめた恋心と、人生の執着と
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あたしのつかいふるしでござんすが、この紅筆べにふでは、おまえ王子おうじときに、あたしにおくんなすった。今では形見かたみ役者衆やくしゃしゅうの、おまえのおるように出来できますまいけれど、辛抱しんぼうしておくんなさい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御手づからの水にうがひしそれよ朝かりし紅筆べにふで歌かきてやまむ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
紅筆べにふでにわづらひたまふ歌よりも雪の兎に目をたまへ君
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
いかゞ書くらん紅筆べにふで
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
その、山のように撒くおひねりのなかに、たった一つ、道場のお嬢様萩乃はぎのの手で、吉事ならば紅筆べにふでで、今日のような凶事きょうじにはすみで、御礼おんれいと書いた一包みの銭がある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きみは、しかけたよういそがしいをりから、ふゆれかゝる、ついありあはせたしつけ紅筆べにふで懷紙ふところがみへ、と丸髷まるまげびんつややかに、もみぢをながすうるはしかりし水莖みづぐきのあと。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「見られる通り、一枚の小菊の中ほどに、紅筆べにふでで書いた、得体の知れない仮名文字が二十五ある」
「見らるゝ通り、表の小菊の中ほどに、紅筆べにふでで書いた、得體の知れない假名文字かなもじが二十五ある」
くみは、しかけたようせはしいをりから、ふゆれかゝる、ついありあはせたたしなみ紅筆べにふでで、懷紙くわいしへ、圓髷まるまげびんつややかに、もみぢをながす……うるはしかりし水莖みづぐきのあと。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紅皿は半分以上げて、筆はかなり上等の細筆、ぢくは半分程のところから切つて捨ててありますが、の根の方が薄黒くて、元は墨に使つた筆を、洗つて紅筆べにふでにした樣子です。
菊枝は活々いきいきとしたむすめになったが、以前から身に添えていた、菊五郎格子の帯揚おびあげに入れた写真が一枚、それに朋輩のむすめから、橘之助の病気見舞を紅筆べにふでで書いて寄越よこしたふみとは
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紅筆べにふで戀歌こひか移香うつりがぷんとする懷紙くわいしうや/\しくひろげて、人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)