はこ)” の例文
少女は、硫黄いおうを採るために来たのだろう。が、硫黄を入れるはこをそばへ置き捨てたまま、いつまでも俊寛が鰤を釣り上げるのを見ている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ひも売り、花売り、ちまき売りなど、はこかごを、髪の上に、乗せていた。女たちが、物を頭へのせて歩く習慣は、見なれていた。
ウンウン真鍮張しんちゅうばりのトランクの中に麻雀八はこか……パイの中味は全部刳抜くりぬいて綿ぐるみの宝石か……古い手だな……。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
因ってその不浄を捨てに行くはこを奪いこころむるに、丁子ちょうじの煮汁を小便、野老ところに香を合せ大きな筆管を通して大便に擬しあったので、その用意の細かに感じ
ついでながら、筆者はその時分のお虎子まるがどんなものであったかを知らない。今昔にはたゞ「はこ」と云ってあるが、宇治拾遺には「かはご」とあるので、皮で造った筥が普通だったのであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しろがねの玉をあまたにはこ荷緒にのおかためて馬はしらする
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
と照常様は不要の品をはこに入れてきた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おん直垂ひたたれのまま、鞍に錦で包んだはこをお置きになっているのが、天皇だとわかって、初めて警固の隊を組むような有様だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんどは細ながいはこからこれもげんの舶載らしい水墨画を解き出して、壁にかけ、脇息にって、ながめ入った。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
過ぎ去ったことだの、はこの中にかくしてある物をあてたところで、何の世人せじんの益にもならない。未然の禍いを
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はいま、手ずから荷造りしているはこの底へ、一個の位牌いはいをしまっていたが、ふたたびそれを両手に取り上げて、念仏を唱えながらひたいにあてて拝んでいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、さっそく、はこの二品を、そこへ供えて、使いのおもむきを申しのべた。——が、端王は、贈り物のそれよりは、むしろ高俅のまりの妙技に魅せられてしまった様子で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞍つぼには、その禅尼から餞別せんべつにもらった、美しい双六すごろくはこを、大事そうに抱えていた。そして警固の侍をつかまえて、双六のはなしなどしかけたので、検視役人季通すえみち
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今申し上げた牛飼の女のことが、太守に聞えたので、管輅を召し、山鶏の毛と、印章のふくろを、べつべつなはこにかくしてうらなわせてみたところ、寸分たがわず、あてたと申しまする」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寿亭侯じゅていこうの印と共に、くらの内にかけておき、なお庫内いっぱいにある珠玉金銀のはこ襴綾種々らんりょうくさぐさ緞匹だんひつこり、山をなす名什宝器めいじゅうほうきなど、すべての品々には、いちいち目録を添えてのこし
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春の訪れをかたくこばんで、昼もしとみをおろし、鏡は袋に、臙脂皿べにざらや櫛ははこのうちにふかくひそめられたまま、几帳きちょうの蔭に、春はこれからのうら若い佳人が、黒髪のなかに珠の容貌かおを埋めて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかっているが、あいにくと、塗りかけているはこものやなつめなどがたまっている」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれがさるめにこんなものをゆわいつけたのか? やア、こりゃいよいよもって不審ふしんばん浜松城はままつじょう使番つかいばん常用じょうようはこ、しかも紅房べにふさ掛紐かけひもであるところを見ると、ご主君しゅくん家康いえやすさまのお直書じきしょでなければならぬが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なあ、相棒、なんだか小さなはこを持っていたようじゃねえか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「欲しくば、かえせ」と、はこをさしあげて見せびらかした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして馬の背の荷物のうちから一箇のはこを取寄せた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのはこん中、何?」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)