笑談じょうだん)” の例文
随分そっけなくして、笑談じょうだん一つ言わないのに、女中は飽くまで丁寧にしている。それは大石が外の客の倍も附届つけとどけをするからである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしその他の場合では、罪のない笑談じょうだんを言ったりして、妻や子供の家族を笑わせ、女中までも仲間に入れて、一家団欒だんらんの空気を作った。
津田はこの子供に対するような、笑談じょうだんとも訓戒とも見分みわけのつかない言葉を、苦笑しながら聞いた後で、ようやく室外にのがた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笑談じょうだんじゃない、そうじゃない雪焼けだよ、どうも頭痛がして、それに顔が火のようにほてってたまらないんだ、君は何ともないのかい」
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
鶴さんに揶揄からかわれながら自分の様子をほめられたときに、半分は真剣らしく、半分は笑談じょうだんらしく、妹のそこにあることをこころにかけぬらしく
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それをさしたるものとは知らず、取調べに当って、笑談じょうだんに、足の裏のホリモノは何のマジナイなりやと問いかけたり。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何かの笑談じょうだんを云って「エス・イスト・ヤー・マノーリ」というから、それは何の事だと聞いてみると、「馬鹿げた事だ」という意味の流行語だという。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
じょう笑談じょうだん言って。私なんざ年ばかしいい年して、からもう意気地がねえもんだから、いくら稼いでも、やっと二人が口をぬらして行くだけでげさ、へへへへ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
そして笑談じょうだんのように、軽い、好い拳銃を買いたいと云った。それから段々話し込んで、うそ尾鰭おひれを付けて、かけをしているのだから、拳銃の打方を教えてくれと頼んだ。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
じょ笑談じょうだんじゃござんせぬ。ごらんの通りわたしどもは田舎ものばかり、この人前で手前ども風情ふぜいを恥ずかしめてみたとて、お旦那方のご自慢になるわけじゃござんせぬ。
青天の霹靂へきれきである。一同しばらくは茫然ぼうぜんとしていた。笑談じょうだんだろうか。この貴族先生の顔色を見るに、そうは受け取れない。世界を一周する。誰一人それを望まないものはない。
なんだかエルリングの事は、食卓なんぞで、笑談じょうだん半分には話されないとでも思うらしく見えた。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
笑談じょうだんは置いて、わたしがこうやってここへ来るのなんぞも、同じ道理かも知れないでしょう。
「そうさ。ひどく草臥ている。」男は笑いながらこう云って、笑談じょうだんらしく女の髪をでた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
自分のような乞食こじき同様な百姓を、こんな長者ちょうじゃの内の婿むこにするはずはない、これはきっとこの年寄の気が狂っているのか、それでなければ笑談じょうだんに言っているのだと思いましたから
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
笑談じょうだん半分に私はいい出しました。皆が妙な顔をして私の顔を見ているのは、一体、大仏を拵えてどうするのかという顔附きです。で、私は勢い大仏の趣向を説明して見ねばなりません。
皆は四方の棚の上下の寝床から身体を乗り出して、ひやかしたり、笑談じょうだんを云った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
医学士「ハハハハ停車場すていしょんへ、預けてある荷物を受け取らねば成らぬと仰有ったが茲は停車場では有りませんよ、貴方の商用とは大変な商用ですネエ」嘲けるよりも寧ろ打ち解けて笑談じょうだん
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「浮気」彼女は柳眉りゅうびを逆立てていう。「笑談じょうだんじゃないわ。あんなところに、お勤めしていても、あたしだけは真面目で通したのよ。だから、日に四百円ぐらいしか、平均の収入なかったのよ」
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「旦那笑談じょうだんではございませんよ、失礼な。お客様御免下さいまし。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ、洒落や笑談じょうだんよしにして、わたしは度々
笑談じょうだん半分入って見た傷害保険が役に立つ訳だが、アヴァランシュの騒ぎで、金入れと一所いっしょに証書までどこかへ落したのは滑稽だ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
妻の笑談じょうだんを聞いて始めてそれを思い出した時、私は妻に向ってもし自分が殉死するならば、明治の精神に殉死するつもりだと答えました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客は自己の無智に乗ぜられていながら、少しもそれをさとらずに、薄い笑談じょうだんの衣を掛けた、苦い皮肉をあびせられて、無邪気に笑い興じている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上さんは、笑談じょうだんらしくめかけの周旋を頼んだりする小野田に言うのであったが、お島はやっぱりそれを聞流してはいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私も傍で聞いていてからかうのだと思った。女房も始めは笑談じょうだんにしていたが、銭占屋はどこまでも本気であった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
食事をして一応女中と笑談じょうだんでも云い合わなければ寝る順がつかないような感じのところだ。
安吾巷談:07 熱海復興 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
笑談じょうだん半分に私はいい出しました。皆が妙な顔をして私の顔を見ているのは、一体、大仏をこしらえてどうするのかという顔つきです。で、私は勢い大仏の趣向を説明してみねばなりません。
これは無論笑談じょうだんであるが彼の真意は男女の特長の差異を認めるにあるらしい。
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
男は笑談じょうだんらしく云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
笑談じょうだんじゃない。なにを
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
笑談じょうだんじゃない!
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「ええまあ笑談じょうだんみたいなものです。ごくごく大袈裟おおげさに云ったところで、面白半分の悪戯いたずらよ。だから思い切ってやるとおっしゃい」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おとなしくして待っているのだよ」と、笑談じょうだんらしく云って、末造は巻烟草入まきたばこいれをしまった。そしてついと立って戸口へ出た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
紐をゆるめてね返るまでには、半分は本気で半分は笑談じょうだんのような無言の争闘がしばらく続いたが、起きあがってみると、ぐったりとした吭笛のどぶえのところは
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「え⁈」と男は思わず目を見張って顔を見つめたが、苦笑いをして、「笑談じょうだんだろう?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
まア笑談じょうだんのつもりで御返事下さい、というような打ち解けた素振りであった。
犯人 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
Kにはそこが大変気に入っていたのです。それで私は笑談じょうだん半分はんぶんに、そんなに好きなら死んだらここへ埋めてやろうと約束した覚えがあるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芸者はたしなめるように、ちょいと僕を見て、僕の右前の方の人に杯を差した。笑談じょうだんではない。笑談をよそおってもいない。右前にいたのは某教授であった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新吉はばつが悪そうに振りいて、淋しい顔にみを浮べた。「笑談じょうだんじゃねえ。明日から頭数が一人殖えるんだ。うっかりしちゃいらんねえ。」と低声こごえで言った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あれ、笑談じょうだんじゃないんだよ。まあ写真を見せるから……」と立ちかける。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
夫の言葉を笑談じょうだん半分に聴いていられるようになった細君は、自分の生命に対して鈍いながらも一種の危険を感じたその当時を顧みなければならなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笑談じょうだんじゃないぜ。その位な事を、どう思って見ようもないじゃないか。いつまでねんねえでいるのだい」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「どうせそうでしょうよ、これは私のお土産ですもの」お島は不快な気持に顔をあからめた。「でも笑談じょうだんにもそういわれると、厭なものね。子供が可哀そうのようで」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笑談じょうだんいっちゃいけない。これだけのかまえをしていて、その位の融通が利かないなんて、そんなはずがあるもんか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笑談じょうだんお言いでない。」お松も実は余り心丈夫でもなかったが、半分は意地で強そうな返事をした。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
銀子は笑談じょうだんを言ったが、正直な婆やはちょっとに受け、「まさか」と顔を見比べて笑っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けれどもこういう場合に、大丈夫だと思ってつい笑談じょうだんに押すと、押したこっちがかえって手古摺てこずらせられるくらいの事は、彼に困難な想像ではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
只何事をもいて笑談じょうだんに取りなす癖のおじが、珍らしく生真面目きまじめになっていただけである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葉子は笑談じょうだんのように羨望せんぼう口吻こうふんらすこともあったが、大枚の生活費を秋本にみつがせながら、愛だけを独占しようとしている庸三の無理解な利己的態度が、時には腹立たしく思えてならなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)