端折はしよ)” の例文
金之助は早くも立ち上がつて、主人の部屋の方へ飛んで行き、八五郎はもう一度、尻を端折はしよつて、濡れた押入にもぐり込みました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「あれ、まア」と、東北辯の押しつまつた口調で驚きあわてて、裾の端折はしよりをおろす。それで、義雄が第一にきたならしいと思つた白の腰卷きが隱れる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
與吉よきち近所きんじよ子供こども田圃たんぼた。あたゝかいにはかれ單衣ひとへかへて、たもとうしろでぎつとしばつたりしりをぐるつと端折はしよつたりしてもら待遠まちどほねてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
勤め人らしい男は、小さな子を抱いてゐて、晴着を着裝きかざつた女は、裾を端折はしよつて傘の柄を苦しげに握つてゐた。
(旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
おぼろ/\と霞むまで、暑き日の静さは夜半にも増して、眼もあてられざる野の細道を、十歳とおばかりの美少年の、尻を端折はしより、竹の子笠被りたるが、跣足はだしにて
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼等は足許あしもとに埃を舞はせながら白白とした野路を歩き出した。実枝は日傘ひがさかざした。礼助と兄とはすそ端折はしよつてゐた。礼助はステツキで向う手の山を指しながら云つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
ぢあ、話を端折はしよるとしなくつちや。で、その窓を開けると私はづか/\這入つて行つたのです。
私は裾を端折はしよつてり仕度をしながら、いかにも酒ずきらしいこの爺さんに言つた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
眞鍮は眞鍮と悟つたとき、われ等は制服を捨てゝ赤裸まるはだかの儘世の中へ飛び出した。子規は血を嘔いて新聞屋となる、余は尻を端折はしよつて西國へ出奔する。御互の世は御互に物騷になつた。
京に着ける夕 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しり端折はしよつてひざの所からダラ/\血が流れてりまする。
「待つてくれ。まさか、お前が殺したわけぢやあるめえ、端折はしよつたすそだけでもおろしてよ、其處へ坐つたらどうだ。まるで逃げ出しさうな恰好ぢやないか」
おつたは幾年いくねん以前まへ仕立したてえる滅多めつたにない大形おほがた鳴海絞なるみしぼりの浴衣ゆかた片肌脱かたはだぬぎにしてひだり袖口そでぐちがだらりとひざしたまでれてる。すそ片隅かたすみ端折はしよつてそとからおびはさんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
婀娜あだたるこゑ障子しやうじけてかほした、水色みづいろ唐縮緬たうちりめん引裂ひつさいたまゝのたすきたまのやうなかひなもあらはに、蜘蛛くもしぼつた浴衣ゆかたおびめず、細紐ほそひもなりすそ端折はしよつて、ぬの純白じゆんぱくなのを
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
金之助はフト尻を端折はしよりかけましたが、そんなことをするのは、極りが惡かつたものか、女の子のやうに、裾を兩腰の間に挾んで、それでも至つて身輕に押入の中から
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
それは大抵たいていあたゝかなかぎられてるのであつたが、そのときかれおほきな躯幹からだはきりゝとおびめて、股引もゝひきうへたかしり端折はしよつてまだ頼母たのもしげにがつしりとしてえるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)