おさ)” の例文
まだおさない九歳ここのつの子ではあるが、軽く抱いて、置き換えられないようなおおきさというか、気品というか、威というか、そんな気持をうけた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
精神のみを以て事業を為し遂げ得べしと一ママに思いしおさな心の憐れさよ、某大事業家を見よ、彼は学校を起すにあたって広く世の賛成を仰ぎ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
親鸞 お前はまだおさない童子だったがな。あのころから少しからだが弱いと言っておかあさんは案じていらしたっけ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
誰でもみんなが持つおさない感情がどやどやと足音をさせ、しばらく私をとりかこんでくるのが、何より嬉しかった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
我れ今まで薬袋やくたいもなき小説を油汗にひたりて書き来りしが、これよりはた如何にすべき、我が筆は誠におさなし
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
高城伍長は抑揚よくようのない発声法で、花田中尉のそのような返答をはっきりと報告した。まだ若い、少年のおさなさを身体の何処かに残したような下士官である。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
おみちはいつまでもおさな顔の抜け切らぬ顔立ちの娘であった。それ故にこそ親が貰って呉れた妻ではあったが日本に居るときの新吉は随分とおみちを愛した。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
紙に取って楽しむ遊びがある。すなわちつき草は特に附きやすい花だったのである。おさない人たちの新しい名を好む癖は、この方面にもあきらかに現われている。
や、百人一首でおさ馴染なじみ業平なりひらの冠に著けた鍋取なべとりによく似た物を黒革作りで高帽の一側に著けあり。
世間の風はいつも私には暖かく、おさな心からいつまでも私は脱けられないのであった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
あの歿なくなったのは六歳むっつときでございましたが、それがこちらの世界せかい大分だいぶおおきくそだっていたのにはおどろきました。おさがおはそのままながら、どうても十歳位とおくらいにはえるのでございます。
そのころの克子の目はまだおさなかったのだ。悲しさに曇ってもいた。
男も、女も、老いたるも、おさなきものも——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なつかしむおさな心に
猟奇歌 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
もう二人の娘は、その頃の少女ではないと思っても、かれの想像はやはりあの当時のおさな顔を描いてみせる。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの女は、働くことに無力な一人の病身で内気なおさない母と、そのみどり子のえるのを、誰もかまってれない世の中のあまりのひどさ、みじめさに、あきれ果てた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肩のあたりの骨が細く、服の加減で、少年のようなおさなさを見せている。何か漠然とした不安が、私をとらえた。男は、両掌りょうてを後頭部に組み、そのままうしろに寝ころがった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それに(苦しそうに)善鸞のおさないものの運命をおそれない軽率な招き、私はよそ事には思われない。私はどうしても唯円の罪を分け負わなくてはならない。その私がどうして裁くことができよう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
当初おさなくしてまた上品な貞門ていもんの俳諧を突破して、梅翁ばいおう一派の豪胆なる悪謔あくぎゃくが進出した際には、誰しも鳥羽僧正とばそうじょうの画巻をくりひろげるような痛快さをもって、よろこび迎えざる者は無かったのであろうが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あいや、六条どの、それはおさな心というものではないか。母に仏心あれば、子に仏心のうつること当然、うちに仏音あれば、子の声に仏韻ぶついんの生じることまた当然。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのやわらかい筋肉とは無関係に、角化質かくかしつの堅いつめが短かくさきの丸いおさない指を屈伏くっぷくさせるように確乎かっこと並んでいる。此奴こいつ強情ごうじょう!と、逸作はその爪を眼でおさえながら言った。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すべておさは、澄んだ水でござる。それを、奇瑞きずいの、奇童のと、見るのはすでにわれら凡俗の眼があやまっている。——あらゆる童心はすべて仏性ぶっしょうでござろうぞよ、おわかりか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やっぱり巴里パリのむす子さんへの歌だったな。『おさな母』って題で連作でしたよ」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
阿斗は、時に、まだ三歳のおさなさであった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)