秀衡ひでひら)” の例文
また奥州の金商人吉次(一書ニハ五条橘次末春きつじすえはる)という人間の素姓も不明である。秀衡ひでひらとの関係などは、皆目、証するものがない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀衡ひでひら将軍の家も系図では佐藤であるが、信夫の継信忠信兄弟が有名であったために、後には彼らの末裔なることを信じない佐藤家が少なくなった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三代の栄耀えいえう一睡のうちにして、大門だいもんの跡は一里こなたに有り、秀衡ひでひらが跡は田野に成りて、金鶏山のみ形を残す。先づ高館たかだちにのぼれば、北上川南部より流るる大河也。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎮守府将軍藤原清衡きよひらが、奥州の豊田館から平泉に館を築いて移ったのは堀河天皇の御宇ぎょうで、今からおよそ八百四十年前、それから基衡もとひら秀衡ひでひら泰衡やすひらと四代、平泉館に住んで
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なんでも奥州の秀衡ひでひらの全盛時代だといいますから、およそ八百年ほどもまえのことでしょう。かの龍の池から一町あまりも離れたところに、黒太夫という豪農がありました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たからはなんでも千というかずをそろえてつものだそうた。奥州おうしゅう秀衡ひでひらはいいうまを千びきと、よろいを千りょうそろえてっている。九州きゅうしゅう松浦まつうら太夫たゆうゆみを千ちょうとうつぼを千ぼんそろえてもっている。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
備前から四国にわたり、おもに讃岐さぬきにいて、筑紫つくしまで行ったようだ。六十九歳になって再び伊勢に行き、そこから東海道を鎌倉に出て頼朝に謁し、はるか奥州平泉ひらいずみまで藤原秀衡ひでひらに会いに行った。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
須弥壇は四座しざあって、壇上には弥陀みだ観音かんおん勢至せいし三尊さんぞん二天にてん六地蔵ろくじぞうが安置され、壇の中は、真中に清衡きよひら、左に基衡もとひら、右に秀衡ひでひらかんが納まり、ここに、各一口ひとふりつるぎいだき、鎮守府将軍ちんじゅふしょうぐんいんを帯び
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
往昔秀衡ひでひらの室、社後の岩窟にて臨産の節、祈願して母子安全たり、また王子に祈誓し、この子をすなはち巌窟に捨て置き、三山にけいして帰路にこれをみるに、狐狼等守護していさゝかもつつがなき故に
窺はば鎌倉の治世覺束おぼつかなかるべしなど語合ふおもへ治承ぢしようの昔し頼朝には北條時政といふ大山師おほやましが付き義經には奧州の秀衡ひでひらといふ大旦那だいだんなあり義仲には中三權頭兼遠ちうさんごんのかみかねとほといふわづかの後楯うしろだてのみなりしに心逞ましき者なればこそ京都へ度々忍びのぼつて平家の動靜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「どうして、あれほどきびしい平家の付人つけびとの眼をくらましたか、関東へのがれて、身をひそめ、今では、奥州みちのくの藤原秀衡ひでひら懸人かかりゅうどになっているとやら……」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三の散佚さんいつはあろうが、言うまでもなく、堂の内壁ないへきにめぐらしたやつの棚に満ちて、二代基衡もとひらのこの一切経いっさいきょう、一代清衡きよひら金銀泥一行きんぎんでいいちぎょうまぜがきの一切経、ならび判官贔屓ほうがんびいきの第一人者、三代秀衡ひでひら老雄の奉納した
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これよりあなた様が頼って行く先のお方は、富強ご威勢、平相国へいしょうこくにも劣らぬといってもよい奥州平泉の藤原秀衡ひでひら様です。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
は亡き義朝が末子、幼名を牛若といい、兄頼朝とは平治の乱にわかれ、鞍馬に育ち、奥州みちのく秀衡ひでひらもとにて人となり、今、源九郎義経と名のる者。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲斐かい信濃しなのを駈けまわり、さらに、その時は脚をのばして、奥州平泉のたちに、藤原秀衡ひでひらを訪ね、そこに成人している源九郎義経ともひそかに会った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、この母の従姉弟いとこに、今は、奥州みちのくの藤原秀衡ひでひらのもとにひそんでいる源九郎義経よしつねがあり、また、近ごろ、伊豆で旗挙げをしたと沙汰する頼朝がある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥州の藤原秀衡ひでひらにしても、理由なく、牛若の成人まで留めておいたという点には、不審がある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吉光御前の思いやりと、自分や自分の主人あるじ秀衡ひでひらが考えている思いやりとは、同じ遮那王しゃなおうにもつ好意にしても、まるで、性質がちがっていたことを、はっきり、今、知った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みちのく平泉の藤原秀衡ひでひらの庇護の下にいて、自然児ぶりを振舞っていた源九郎義経は、熊野の新宮に叔父がいるのを知って、牡鹿おじかの港から熊野通いの船にひそみ、紀州へ来て
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)