祝言しゅうげん)” の例文
小父さんも小母さんも、口を揃えて、近いうちに祝言しゅうげんをするようにと、勧めてくれますのに、お由利さんは、うんとは申しません。
が身が幸福になりたいばかりに祝言しゅうげんさかずきもした。父、母もそのつもりで高砂たかさごを聴いていたに違ない。思う事はみんなはずれた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祝言しゅうげんの席から友達と飲みに出てしまって、そのままお城勤めをすまして今帰ってみると、またゆうべの祝言の時刻に近い黄昏たそがれなのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先方は、是非ということでな、お前さえ承知なら、この秋には、祝言しゅうげんという段取りにまで運びたい、といいなさっとる」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「いや、私は先代の亡くなった後、人のすすめで、入婿いりむこに入ったとは言っても、表向おもてむき祝言しゅうげんをしたわけではありません」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
山陰の旧家には椀籠負わんこおいという祝言しゅうげんがあり(民俗学四巻四号)、九州南部に行くとかまどの前の田の神舞かみまいがあり、あるいはまた各地方の七軒もらいがあり
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
広々とした座敷を指して、「葛城さんが帰って来たら、此処ここ祝言しゅうげんさせようと思って居ました」と主翁がまた云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
幸之助は黒沼家の婿養子となって、いまだ祝言しゅうげんの式さえ挙げないが、お勝という定まった妻のある身の上である。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
継母やあのいやらしい丹波から、じゃまの手がはいって、いまだに、祝言しゅうげんのさかずきごとさえあるじゃなし——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夫婦になろうと云いだしたのはおれのほうだ、あとでわかったのだが、おさんには親許で約束した男があり、その年が明けると祝言しゅうげんをする筈になっていた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昨夜ごく親しい少数の人たちを呼んで、二人が手軽な祝言しゅうげんをすました手狭な二階の部屋には、まだ新郎の礼服がしまわれずにあったり、新婦の紋附や長襦袢ながじゅばん
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
祝言しゅうげんの夜ふけ、新郎と新婦が将来のことを語り合っていたら、部屋のふすまのそとでさらさら音がした。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところが、嫁ぎ先の寺田屋へ着いてみるとしゅうとめのお定はなにか思ってかきゅうに頭痛を触れて、祝言しゅうげんの席へも顔を見せない、お定は寺田屋の後妻で新郎の伊助には継母だ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし夏休みに帰郷したら貞代さんは町の呉服屋「丸喜」の総領息子と婚約が定って、九月早々祝言しゅうげんということになっていた。藤浪君は憤慨したけれど、今更仕方がなかった。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『弓馬秘伝聞書』に祝言しゅうげんの供に猿皮の空穂うつぼを忌む。『閑窓自語』に、元文二年春、出処不明の大猿出でて、仙洞せんとう、二条、近衛諸公の邸を徘徊せしに、中御門なかみかど院崩じ諸公もこうじたとあり。
やがて愛らしい花嫁となる処女むすめが、祝言しゅうげんの前晩に頓死とんしするのもある、母親の長い嘆きとなるのも知らずに。麻痺まひしたしんの臓のところに、縫いかけた晴れ着をしっかり抱き締めたりしてな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「しかし、金兵衛さん、あの半蔵のやつがもう祝言しゅうげんだなんて、早いものですね。わたしもこれで、平素ふだんはそれほどにも思いませんが、こんな話が持ち上がると、自分でも年を取ったかと思いますよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「平太郎といえば、死んだお由利さんと、祝言しゅうげんするはずだった男だが。……それじゃ男の方でも、お春を想っているのか」
和泉すみとの祝言しゅうげんが近づいたので、その打合せもあり、喜兵衛は珍しく上機嫌に酔った。そのうちにふと、彼は急に首をれながら「可哀かわいそうな人だ」と呟いた。
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どうでえ! 喧嘩に強い奴あ恋にも強いぞ。長の思いのれる夕べだ。哲別ジェベ速不台スブタイ酒宴さかもりの支度をしろ。花嫁花婿のために、祝言しゅうげんの席を設けろ、あっはっはっは。
「ええ夫婦めおとが出来るぞ。玉井組と藤本組とが手を握りゃあ、鬼に金棒じゃ。祝言しゅうげんは、この春ちゅうわけにも行くまいけ、秋に、早目にやろ。夏は暑うて、かなわん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
見合いもお祝言しゅうげんも同じものの様な気がしていましたから、かるがると返事は出来ませんでした。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
地方にはくあるならい、角川の市郎と冬子とは所謂いわゆる許嫁いいなづけの間柄で、市郎が医師を開業すると同時に、めでたく祝言しゅうげんという内相談ないそうだんになっている。勿論もちろん、二人の間に異存は無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
用心棒においた居候の浪人、松平源左衛門というのが、ズルズルべったり、祝言しゅうげんなしで後家ごけのお駒といっしょになり、平松屋と暖簾のれんを染め直して、金貸稼業かぎょうをつづけたが、不思議なことに
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
祝言しゅうげんのことが知れてから、彼にも似あわず、家の召使たちにも、ひどくこの頃はてれていた藤吉郎であった。聞き伝えて、近所の細君や同役の誰彼が祝い物など持って来ての応対などにも
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父おじはもし私が主張するなら、私の卒業まで結婚を延ばしてもいいといいました。けれども善は急げということわざもあるから、できるなら今のうちに祝言しゅうげんさかずきだけは済ませておきたいともいいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いえいえ。左様なことはございません。お由利も、親の口から申しますのは、何でございますが、かたい女で、平太郎もまた気の弱い男、祝言しゅうげんの日のきまるのを
そして五月四日に、調書焼却のあった日の夜、麹町六丁目にある花田家で、二た組の祝言しゅうげんが行われた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「源三郎の顔を見て、萩乃と祝言しゅうげんさせ、この道場を譲らぬうちは、行くところへも行けぬわい」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お蘭はそのあくる日、徳右衛門の居間に呼ばれて、本町紙屋彦作かみやひこさく様と縁談ととのった、これも日蓮様のおみちびき、有難ありがたくとこしなえの祝言しゅうげんを結べ、とおごそかに言い渡せば
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
娘も案外素直に承知して、とどこおりなく祝言しゅうげんの式もすませ、夫婦仲も至極むつまじいので、まあよかったと主人も安心し、わたくしも蔭ながら喜んでいましたが、そのあくる年に娘は死にました
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まさかご祝言しゅうげんも運べますまいと、わしがいった。するとだ、亘様には、何も今が今というのじゃない。其方から新七へ約束だけしておけと仰っしゃるのだ。そしてまた、仰っしゃることもおもしろい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「金さん、おれが退院するまで、祝言しゅうげんをのばしといてくれよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かすかによろこびの光線ひかりとも思われるのは、父があんなに待ったにもかかわらず、とうとう源三郎様がまに合わないで、死にゆく父の枕頭で、いやなお方とりの祝言しゅうげんのさかずきごとなど
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
祝言しゅうげんをすれば世帯しょたいじみてしまうんだ」と直衛は云った、「家庭の煩瑣はんさなきずなからはなれ、二人だけでのんびり食事のできるのはいまのうちだからな、他人の眼なんか気にするのはばかげた話だよ」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鳩首きゅうしゅして眼を光らせてうなずき合い、四方に手廻てまわしして同じ讃岐の国の大地主の長女、ことし十六のお人形のように美しい花嫁をもらってやったが、才兵衛は祝言しゅうげんの日にも角力の乱れ髪のままで
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やぶ蚊の多い弓之衆ゆみのしゅうの組長屋で、一組の聟とり祝言しゅうげんがあった。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたしがあんたと祝言しゅうげんしたとき、いい良人おっとにめぐり会ったと思った
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その翌年の二月、小野十太夫は安川しづと祝言しゅうげんした。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)