疑念ぎねん)” の例文
栄三郎は今まで千住竹の塚の乳兄弟ちきょうだい孫七方にころがりこんでいたものと知れて、お藤にふきこまれたお艶の疑念ぎねんはあとかたもなくはれわたったが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
徳川家とくがわけ使者ししゃについてきたさむらい横顔よこがおをさしのぞくのも無礼ぶれいであるし、疑念ぎねんのあるものをやすやすと、主君の前へ近づけるのはなおのこと不安ふあんなはなし。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ころさゞる事分明なり斯ても菊が仕業しわざなりと疑ふと申されしかば彌吉も粂も恐れ入て今更いまさら面目なく聊かも疑念ぎねん是なき段申立たり依て越前守殿お菊が腰繩こしなは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勘次かんじうちからんでもかはやそば返辭へんじをするおつぎのこゑ最初さいしよあひだ疑念ぎねんいだかせるまでにはいたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
妻の眼色めいろを読もうとしても、主人の貌色かおいろに気をつけても、ただ疑念ぎねんばかりで証拠を押えることが出来ません。斯様こんな処に奉公するじゃないと幾度思ったか知れません。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もしや彼らが十二月八日をショックとして云いあわせたように気が変になったのではないかと疑念ぎねんを抱かせるものがあるのであったが、二三の者に小当りに当ってみた結果によると
事々物々秩序ちつじょを存して動かすべからざるの時勢じせいなれば、ただその時勢に制せられて平生へいぜい疑念ぎねん憤怒ふんどを外形に発することあたわず、或は忘るるがごとくにしてこれを発することを知らざりしのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なにいとふてか三らうかきたえかげせず疑念ぎねんかさなる五月雨さみだれのくも
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が晴季は、そのあとで、ふと不安な疑念ぎねんにおそわれたか、小走りにそうたちのあとを追おうとした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見て疑念ぎねんを散ずべしと彼二品を差示さししめせば大膳は此品々を受取まづ御墨附おすみつきを拜見するにまさしく徳太郎君の御名乘に御書判おかきはんをさへすゑられたり又御短刀おんたんたうを拜見し暫く見惚みとれて有りしが大膳きふに座を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そもそも月世界つきのせかいは空気もない死の世界で、そこには何者もんでいないものと信ぜられていた。だから「危難の海」に現われたこの小さい白点はくてんは、月世界の無人境説むじんきょうせつの上に、一抹いちまつ疑念ぎねんを生んだ。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小文治は居士の話にいろいろな疑念ぎねんをはさんだ。亀卜の易とはなにか? またきょうの鞍馬山から武州まで、きょうぶらりとやってきたというのも、自分の聞きちがいのような気がした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知つゝ出家しゆつけになし奉らんは勿體もつたいなき儀に付今度我々守護しゆごし奉つり江戸おもてへ御供仕つるについては一度江戸表へ御下りのうへは二度京坂けいはん御見物ごけんぶつも思召にまかせられざるべしと依て只今のうち京坂けいはん御遊覽ごいうらんの爲當表たうおもてへは御出遊いであそばされしなり委細ゐさいは斯の如し相摸殿にも是にて疑念ぎねん有べからずと辯舌べんぜつ滔々たう/\として水のながるゝ如にのべたり是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)