甲斐がひ)” の例文
殺したとは辛抱しんばう甲斐がひのなき事ぞ假令たとへほね舍利しやりになればとて知らぬ事は何處迄どこまでも知らぬとは何故云はれぬぞと云を九助は聞終たきの如く涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
憎んでも憎み足りない私であつても八年の間良人をつとと呼んだのだから、憎んでもにく甲斐がひなく、悪口言つて言ひ甲斐もないことなのである。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
私の膳から食べものを盗んで食べる。叱つても叱り甲斐がひがない。そこで私は二階に膳を運んで錠をおろし、孤独で食べる。
(新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
くたまさかに取出とりいづるにもゆびさきこわきやうにて、はか/″\しうはひがたきを、ひとあらば如何いかばかり甲斐がひなくあさましとおもふらん
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一体男に禁酒させるのは、女に有難がられる第一の功徳くどくで、世の中に仕事といふ仕事は沢山あるが、女に有難がられる仕事ほど甲斐がひのあるものは無い。
一等面白かつたのは、ジュベア夫人にした時でしたわ。ウィルスン孃は、憐れな病身もので、泣蟲なきむしの、元氣のない、つまり、負かし甲斐がひのない人でしたわ。
そしてそれでも自分の心持をんでれず、かうなる必然さを理解して呉れなければ、それは友だち甲斐がひのないものとして、手を別つより外にすべはないと考へてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
それなら一たい何を甲斐がひにして生きることが出来て居るのであるか? 彼等は唯彼等自身の、それぞれの愚かさの上に、さもしたりげにおのおのの空虚な夢を築き上げて
あとは人間が勝手に泳いで、おのづか波瀾はらんが出来るだらうと思ふ、さうかうしてゐるうちに読者も作者もこの空気にかぶれて是等これらの人間を知る様になる事と信ずる、もしかぶれ甲斐がひのしない空気で
『三四郎』予告 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かたちだけはまいりもせんこヽろ容易たやすくたてまつりがたしとつたたまへと、こともなくひてきいれる景色けしきのなきに、おたみいひ甲斐がひなしと斷念だんねんしてれよりはまたすヽめずとぞ、經机きようづくゑ由縁いはれかくのごとし。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
返さんと致したるもみづあわとなり斯々かう/\いふわけなりと打明うちあけはなしも出來ずて見れば深切しんせつ甲斐がひもなしされまたかくいひ出しては今更持て返るは如何にも本意ほんいなくおいゆかんとすれば受取ずはてどうしてよからんやと茶を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「よろしなあ。こないやと私も甲斐がひがおまんがな。」