犬張子いぬはりこ)” の例文
いつなりけん、みちすがら立寄りて尋ねし時は、東家とうかおうなはた織りつつ納戸の障子より、西家さいかの子、犬張子いぬはりこもてあそびながら、日向ひなたの縁より、人懐しげにみまもりぬ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
犬張子いぬはりこであったり、幻燈の中の様々の人物であったり、一様ではないのですが、恋人に話しかけでもする様に、くどくどと相手の言葉をも代弁しながら、話し会っているのでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
勝手に成れとて彼れを家へ迎へたは丁度貴孃が御懷妊だと聞ました時分の事、一年目には私が處にもお目出たうを他人からは言はれて、犬張子いぬはりこや風車を並べたてる樣に成りましたれど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
羽子板はごいたなどが山と高く掲げられるのも見ものでありますが、酉町とりのまち熊手くまでなど、考えると不思議にも面白い装飾に達したものであります。玩具の犬張子いぬはりこなどにも、何かまがいない江戸の姿が浮びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
太郎がいふには犬張子いぬはりこ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
天井には犬張子いぬはりこの、見事大きなのが四足よつあしをぶら下げて動きもせず、一体りッ放しのおきゃんで、自転車に乗りたがっても、人形などは持ってもみようと思わないたちであったのが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年目ねんめにはわたしところにもお目出めでたうを他人ひとからははれて、犬張子いぬはりこ風車かざぐるまならべたてるやうりましたれど、なんのそんなことわたし放蕩のらのやむことか、ひとかほ女房にようぼたせたらあしまるか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
犬張子いぬはりこが横に寝て、起上り小法師こぼしのころりとすわった、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳そえぢ衣紋えもんも繕わず、あねさんかぶりをかろくして、たすきがけの二の腕あたり、日ざしに惜気おしげなけれども
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えて一トつき雲黒くもくらつきくらきゆふべ、らう居殘いのこりの調しらものありて、いゑかへりしはくれの八いつもうすくらき洋燈らんぷのもとに風車かざぐるま犬張子いぬはりことりちらして、まだ母親はゝおや似合にあは美尾みをふところおしくつろげ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)