父親おやじ)” の例文
私も、その頃阿母おふくろに別れました。今じゃ父親おやじらんのですが、しかしまあ、墓所はかしょを知っているだけでも、あなたよりましかも知れん。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お隅の父親おやじがこの男と同じ書記仲間で大屋の登記役場に勤めている時分——お隅も大屋へ来て、唯有とある家に奉公していました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父親おやじの名代で交際大事と顔を出したものの、元来もともと伝二郎としては品川くんだりまでうまくもない酒を呑みに来るよりは
父親おやじはなかなか仲間うちでも聞えた才物だったとかで、一時は、お組頭にも大変寵愛ちょうあいされた身だったそうだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
今あのへんを喜久井町というのは、僕の父親おやじがつけたので、家の紋から、菊井を喜久井とかえたのだそうな。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家事不取締り以ての外と云う厳しい御沙汰ごさたで、父親おやじは百日の間謹慎つゝしみを仰付けられ、百日間に國綱のお刀の出ん時には父は切腹仰付けられるか、追放仰付けられるか知れん
「なぜと云っても成敗役はわしとそしてお前の父親おやじ石右衛門との二人だからよ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おれが父親おやじのような気がするって云うんだ。
おじさんの話 (新字新仮名) / 小山清(著)
……父親おやじは法華宗のかたまりだったが、仕事には、天満宮を信心して、年を取っても、月々の二十五日には、きっと一日断食していた。
息子の幸吉は、三十近い、色のなまちろ優男やさおとこである。父親おやじ命令いいつけを取り次いで、大勢の下女下男に雑用の下知を下しながら仔猫のようにび廻っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お隅の父親おやじさんも飛んで来なすって、医者様を呼ぶやら、水天宮様を頂かせるやら、まあ大騒ぎして、お隅も少許ちったあ痛みが治ったもんだで、今しがた帰って行きなすった。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父親おやじは馬場下町の名主なぬしで小兵衛といった。別に何も商売はしていなかったのだ。何でもあの名主なんかいうものは庄屋と同じくゴタゴタして、収入などもかなりあったものとみえる。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母親おふくろが居りませんに、また父親おやじが見えませんから、屹度きっと宗慈寺様へ行ってるので有ろうと、自分も何時いつも此の寺へ参りますと、和尚に物を貰って可愛がられるから度々たび/\参りますので
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「飛鳥井公定は俺の父親おやじだ」右京次郎は平然と云う。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父親おやじなんざ気をんで銃創てっぽうきずもまだすっかりよくならねえのに、此奴こいつ音信たよりを聞こうとって、旅団本部へ日参だ。だからもうみんながうすうす知ってるぜ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(壁の大地図へ眼が行き、駈け寄る)おお! (剣を抜いて地図を辿たどる)この、阿納オノン客魯漣ケルレン宇児土砂ウルトサの三つの河の流れる奥蒙古の地は、貴様の父親おやじ
「女の児が生れた——僕も初めて父親おやじと成って見た——鶴という名をけたが、どうだろう」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父親おやじ母親おふくろも田舎気質かたぎの固いものでございますから、久離きゅうり切って勘当され、今では生れた家でも足踏あしぶみをする事が出来ませんので、私の母親は屋敷奉公をして来たという話を聞いて居りましたが
「ちかさん、父親おやじ贔屓ひいき盲人めくらにさえ、土地に、やくざものに見離された……この故郷へ、何のために帰るものか。」
父親おやじ母親おふくろを始め、家つきをかさている女房のお辰めに一鼻あかしてやらなくては、というこころがなにかにつけて若い彼の念頭ねんとうを支配していたのだった。
楽しい菱野ひしのの薬師参を憶出しました。大酒呑の父親おやじが夕日のような紅い胸を憶出しました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
政「オヤ羽根田の重三郎の父親おやじが来ましたよ、お母さん」
父親おやじる時分、連立って阿母おふくろ墓参はかまいりをすると、いつでも帰りがけには、この仁右衛門の堂へ寄って、世間話、お祖師様そしさまの一代記、時によると、軍談講釈
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
話好きな辰さんの父親おやじは、女穂めほ男穂おとこほのことから、浅間の裾で砂地だから稲も良いのは作れないこと、小麦畠へ来る鳥、稲田を荒らすという虫類の話などを私にして聞かせた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このチョビ安の父親おやじ行方ゆくえ知れずで、それで左膳を仮りの父と呼んでいるわけだが——一朝、こういうあわてるべき場合に直面すると、逆に、変にのどかになっちまうのが常で。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは、祖父じい何々院なになにいん、これは婆さまの何々信女なになにしんにょ、そこで、これへ、媽々かかあの戒名を、と父親おやじが燈籠を出した時。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾家うちでは子供もふえる、小商売こあきないには手を焼く、父親おやじ遊蕩のらくらあてにもなりませんし、何程なんぼまさりでも母親の腕一つでは遣切やりきれませんから、いやでも応でも私は口を預けることになりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その因縁いんえんでおいらちょいちょい父親おやじの何とかてえ支那の家へ出入でいりをするから、くわしいことを知ってるんだ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
父親おやじの影が見えたので、源はそっと表の方へ抜出しました。何処へ行くという目的めあてもなく、ぶらりと出掛けて、やがて二三町も歩いてまいりますと、さ、足は不思議に前へ進まなくなりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その因縁でおいらちよいちよい父親おやじの何とかてえ支那の家へ出入をするから、くわしいことを知つてるんだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と言われて、私は逢いに来た父親おやじよりも、逢いに来ない母親おふくろの心が恋しくも哀しくも思われました。歯医者はじっと物を考えて、思い沈んでおりましたのです。奥様はその顔を覗くようになすって
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
作平さん、お前はうらみだぜ、そうでなくッてさえ、今日はおきまりのお客様が無けりゃいが、と朝から父親おやじの精進日ぐらいな気がしているから、有体ありていの処腹のうちじゃお題目だ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何の、隠居さん、なあ、おっかあ、今日は父親おやじの命日よ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「笑ってくれたもうなよ、私には一人の父親おやじだ。」
「娘の、爺さんか父親おやじなんだ。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)