爪弾つまはじ)” の例文
旧字:爪彈
爪弾つまはじきされたことは想像にかたくなく、極端な無抵抗主義が因をなして、「腰抜け」という、有難からぬ綽名あだなまで頂戴したのでしょう。
それにしても、四郎はあの爪弾つまはじきの松吉を莫迦に信用しているらしいが、今に松吉の悪心に引懸って、財産も何も滅茶滅茶めっちゃめっちゃにされちまうぞ
(新字新仮名) / 海野十三(著)
すべてを爪弾つまはじきした甲野さんは杖の先で、とんと石橋せっきょうたたいて、ぞっとしたように肩を縮める。宗近君はぬっと立ち上がる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仮令たとえ親戚から離れ、人から爪弾つまはじきせられ、全く自分一人に生きなければ成らないような時が来ようとも、彼としてはそれもむを得なかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兄弟とはいえ好人物の助三郎とは違い、人にも爪弾つまはじきされていたという栄太の死顔を、鼻の先へやぞうを作ったまま勘次は鋭く見下ろしていた。
これ位の情操と誇りを持たずして、どうして人に爪弾つまはじきされる男芸者という職におのれの良心に許されて身が勤まろうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
心ある人は主膳の得意を爪弾つまはじきしていました。主膳自らもこのごろは、酒にふけることが一層甚だしくなって、酒乱の度も追々こうじてくるのであります。
「ですから、自分などは、大坂城中でも、第一の臆病者と、いつも同じ小姓部屋出身の荒武者どもから爪弾つまはじきです」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞭影べんえいへの恐怖、言いかえれば世の中から爪弾つまはじきされはせぬかという懸念、牢屋への憎悪、そんなものを人は良心の呵責かしゃくと呼んで落ちついているようである。
もし、三日や四日で見つかると、前々から申し合せてあったものと見て、二人の間がらは、島人全体から疑われることになる。もちろん爪弾つまはじきをするのだ。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
定めて心変りよと爪弾つまはじきせらるるならんと口惜くちおしさ悲しさに胸は張りくる思いにて、もおちおち眠られず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と、支那人に爪弾つまはじきされたものだ、が皇軍が入城してからは、酔っぱらいやごろつきも姿をかくしてしまい、殊に夜などはひっそりとしずまりかえっていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
僧都 いや、いや、黒潮と赤潮が、爪弾つまはじきしましたばかり。人命を断つほどではござりませなんだ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
才のあるなしよりは自分の信奉するツルゲーネフやドストエフスキーやゴンチャローフの態度と違った行き方をして生活の方便とするを内心ひそか爪弾つまはじきしていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
十八名が全部当選したというお話がありましたが、それらの人々は常日頃から人々に爪弾つまはじきにされて居った人たちが多いのに、どうして普通で当選が出来ましょう。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と俥屋は爪弾つまはじきをしたが、細君は溝へ落ちて貰ってこんなに嬉しかったことはなかった。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大将は爪弾つまはじきがされて、妻に対する憎悪ぞうおの念ばかりが心につのった。先刻愛を感じていた気持ちなどは跡かたもなくなったが、現在は荒だてるのに都合のよろしくない時である。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と皆に爪弾つまはじきされ、さすがに盛長も恥じたのか、扇で顔をかくして京を歩いたという。
床の間にありし大形の——はかまはきたる女生徒の多くうつれる写真をとりて、糸のごとき目にまばたきもせず見つめしが、やがてその一人ひとりの顔と覚しきあたりをしきりに爪弾つまはじきしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其間そのあいだ別に変った事も無かったが、一旦山𤢖と親しんだという風説が、甚だ青年わかものわざわいして、彼は附近の人々から爪弾つまはじきされた。若い者の寄合よりあいにも重蔵一人は殆ど除外のけものとなってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もうあの人たちも知つて居るのだ、みんなが己を爪弾つまはじきして居るのだ。」
(新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黒助兄哥あにい、怨みのある石見様は隠居した上、御親類中から爪弾つまはじきされて、行方不明になってしまった。かたきは討ったも同じことだろう。
母も死ぬ三日前に愛想あいそをつかした——おやじも年中持て余している——町内では乱暴者の悪太郎と爪弾つまはじきをする——このおれを無暗に珍重ちんちょうしてくれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と洩らすほど、近正も、同族の中から爪弾つまはじきされ、多年、不遇におかれていた。不遇が結びつけた仲なのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
捨てられ、いやしめられ、爪弾つまはじきせられ、同じ人間の仲間入すら出来ないやうな、つたない同族の運命を考へれば考へるほど、猶々なほ/\斯の若い生命いのちが惜まるゝ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
常に弓矢を取って乗りまわっているので、土地の者には爪弾つまはじきされていました。
自分こそ親類じゅうの爪弾つまはじき、大の不実者、人間の屑のように言われているのを棚にあげ——アアこうなることとわかっていたら、ふだんからもうすこし不義理をつつしみ、年始暑寒にも顔を出して
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
爪弾つまはじきをして見せて、式部をいじめた。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「おれも柴田家しばたけから爪弾つまはじきをされてみれば、なんとか、ここですえの方針を立てなければならない場合ばあいだが」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)