“煮焚(にたき)” の例文
松子さんの病室の次の間は囲炉裡(ゐろり)になつてゐて、このごろは、三郎さんがお母さんに代つて、そこで煮焚(にたき)をしました。
身代り (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
彼は唯(ただ)、今の離座敷にあるものをそっくり新規な家の方へ持って行くだけのことであった。丁度煮焚(にたき)の世話を頼むに好さそうな婆やも一人見つかったし。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
デモ母親は男勝(おとこまさ)りの気丈者、貧苦にめげない煮焚(にたき)の業(わざ)の片手間に一枚三厘の襯衣(シャツ)を縫(く)けて、身を粉(こ)にして掙了(かせ)ぐに追付く貧乏もないか、どうかこうか湯なり粥(かゆ)なりを啜(すすっ)て
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
本当にこれまで互に跣足(はだし)になって一生懸命に働いて、萩原様の所にいる時も、私は煮焚(にたき)掃除や針仕事をし、お前は使(つかい)はやまをして駈(かけ)ずりまわり、何うやら斯うやらやっていたが
大台所から吐かれる夕煙が寺内にたち籠(こ)め始めた。一切の煮焚(にたき)から炊(かし)ぎや風呂も薪(たきぎ)である。宵にかかる前の一刻はここばかりでなく洛中洛外が炊煙(すいえん)をたなびかせているのだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼(かれ)は勘次(かんじ)から幾(いく)らかづゝの米(こめ)や麥(むぎ)を分(わ)けさせて別居(べつきよ)した當座(たうざ)は自分(じぶん)の手(て)で煮焚(にたき)をした。それが却(かへつ)て氣藥(きらく)でさうして少(すこ)しづゝは彼(かれ)の舌(した)に佳味(うま)く感(かん)ずる程度(ていど)の物(もの)を求(もと)めて來(く)ることが出來(でき)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
煮焚(にたき)勿論(もちろん)、水ももろうてあるき、五丁もはなれた足場の悪い品川堀(しながわぼり)まで盥(たらい)をかゝえて洗濯に往っては腰を痛くし、それでも帰途(かえり)には蕗(ふき)の薹(とう)なぞ見つけて、摘(つ)んで来ることを忘れなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
屋背は深き谿(たに)に臨めり。竹樹茂(しげ)りて水見えねど、急湍の響(ひびき)は絶えず耳に入る。水桶(みずおけ)にひしゃく添えて、縁側(えんがわ)に置きたるも興あり。室の中央に炉(ろ)あり、火をおこして煮焚(にたき)す。されど熱しとも覚えず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近所の婆さんが、煮焚(にたき)の世話をしてくれていたそうです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「煮焚(にたき)も出来るね」
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
長二は其の頃両親とも亡(なくな)りましたので、煮焚(にたき)をさせる雇婆(やといばあ)さんを置いて、独身で本所〆切(しめきり)に世帯(しょたい)を持って居りましたが、何ういうものですか弟子を置きませんから、下働きをする者に困り
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女房おみねは萩原の宅(たく)へ参り煮焚(にたき)洒(すゝ)ぎ洗濯やお菜(かず)ごしらえお給仕などをしておりますゆえ、萩原も伴藏夫婦には孫店(まごだな)を貸しては置けど、店賃(たなちん)なしで住まわせて、折々(おり/\)は小遣(こづかい)や浴衣(ゆかた)などの古い物を遣(や)り