炯々けいけい)” の例文
やや肉落ちて瀟洒しょうしゃたる姿ではあるが、その炯々けいけいたる瞳はほとんど怪しきまでに鋭い力を放って、精悍の気眉宇の間に溢れて見えた。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
熊かと疑うばかりに顔中鬚茫々ひげぼうぼうで、その両眼は炯々けいけいとして野獣のように輝いているという怪人物、身にはよごれきった洋服を着
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「畜生!」万吉の眼は炯々けいけいとなり、五体はブルブルッとふるえてきた。右手めてに何かを固くつかんで身をかがませて行くが早いか
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「トバスキー酋長しうちやう、徳望あり。眼光炯々けいけいたるも物を言ふこと少しく遅し、ゲンゾスキー財産家、物を言ふこと少しく遅けれども眼光炯々たり。」
凜とした声、炯々けいけいたる眼差し、日頃主君を畏敬して居る家中の若侍共は、冷たい水をブッかけられたように、一度に興奮から醒めてかしらを垂れました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こめかみにいつも浮んでゐる癇癖かんぺきの筋、炯々けいけいといふよりは寧ろ冷徹な眼光、とほりのいい幅のひろい声音、独往無礙どくおうむげなその濶歩かっぽぶり、——小幡氏の話では
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
かたいからせ炯々けいけいと眼を光らせた子路の姿が遠くから見え出すと、人々は孔子をそしる口をつぐむようになった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
肖像を見ると、われわれ日本人に余り縁遠くない、細おもての容貌ようぼうで、眼光が炯々けいけいとしているのです。そのくせおとなしい人だそうです。むしろ女性的にょせいてきだということです。
「泥棒!」と主人は胴間声どうまごえを張り上げて寝室から飛び出して来る。見ると片手にはランプをげ、片手にはステッキを持って、寝ぼけまなこよりは身分相応の炯々けいけいたる光を放っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは「ひそかに門隙もんげきよりこれをうかがえば、すなわち灯下に座せる一無頭婦人、一手は首を膝の上にあんじ、一手はくしを持ってその髪をけずる。二目炯々けいけいとしてただちに門隙を見る」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかし、道で道路工事をしている人々や、日除ひよけ付きの牛車をいている人々が、どこの種族とも見受けられない、黒光りや赫黒あかぐろい顔をして眼を炯々けいけいと光らせながら、半裸体で働いている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眼光が炯々けいけいとしていて……そのくれえだから面魂もどこか違ったところがなけりゃならねえ、それだのにおめえさんのは、剃り立てのきれいな青道心で、それに白塗りの痩仕立やせじたてときているから
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
漆黒の、炯々けいけいと射るような眼でコン吉を凝視みつめながら
ただ眼光だけがいよいよおん目のふちにくぼをつくって、炯々けいけいと、それはたしかに全生命力をあげてたたかっている者のみにある異様なるお眸だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炯々けいけいたる二つの眼玉を剥き、小鼻をピクピクさせて、こっちを睨んでいる様子は物凄いというも愚かであったが——その恐ろしい顔には見覚えがあった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
李徴はようや焦躁しょうそうに駆られて来た。このころからその容貌ようぼう峭刻しょうこくとなり、肉落ち骨ひいで、眼光のみいたずらに炯々けいけいとして、かつて進士に登第とうだいした頃の豊頬ほうきょうの美少年のおもかげは、何処どこに求めようもない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
本堂前の金網戸に眼光炯々けいけい、人を射るものあるより、緑川らは妖怪なにほどのことやあると、得物をもって打ちてかかり、本堂の中を追い回しいるうち、ほかに若者数名も駆け集まり
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
炯々けいけいたる幕将たちの眼もとは源右衛門へそそがれた。霜鬢そうびん白き斎藤内蔵助くらのすけおもて、ほとんど仮面かとも見えるほど悲壮な気稟きひんをおびている左馬介光春さまのすけみつはるの顔。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岸隊長は、あらためて高級船員の面をじっと見まわしたが、なるほど、眼の光だけは炯々けいけいとして、新東亜建設の大精神にもえていることがはっきりと看取される。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こうしっかりと呼び止めておいて、三位卿、あの炯々けいけいと射るような眼をジッとそそいだ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも一層驚かされたのは此の室の片隅に細田氏が仰向あおむきに倒れ手足は蜘蛛くもの如く放射形に強直され、蒼白そうはくの顔には炯々けいけいたる巨大な白眼をむき出し、歯は食いしばられて唇を噛み
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
細川殿も、うめきながら、炯々けいけいと眸をかがやかして、終始、熱心に耳を傾けていた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船長はとらの名にふさわしく、眼を炯々けいけいとひからせて、水夫竹見をにらみつけた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
謙信が信長をうかがう眼——信長が謙信を見る眼——いずれも炯々けいけいとゆるがせでなく
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霹靂へきれきの一声を鞍壺の上から浴びせかけた。浪人は炯々けいけいたる眼光を放って
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりを裂いて、股を喰らうぐらいな酒の上は、彼としては、いと穏当な芸である。——だが、捕吏や兵隊は驚いた。鶏の血は張飛の唇のまわりを染め、その炯々けいけいたる眼は怖ろしく不気味であった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それかあらぬか、彼はにわかに、炯々けいけいたる眼ざしをして
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いって、その面を、炯々けいけいと見つめた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炯々けいけいとした釘勘の眼。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)