ひとも)” の例文
旧字:
普通なみの小さきものとは違いて、夏の宵、夕月夜、ひともす時、黄昏たそがれには出来いできたらず。初夜すぎてのちともすればその翼もて人のおもておおうことあり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の顏は再びひともされるのを待つてゐる消えたラムプを思ひ出させた——そして、あゝ! その活々いき/\とした顏の輝きを今かゞやかすことの出來るものは彼自身ではない。
ほんのりと、庭の燈籠とうろうと、室内にもわざと遠くにばかりひともさせたのが、憎い風情であった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ぱらぱら何時かのように村は花をひとも
帰村 (新字旧仮名) / 森川義信(著)
ひともせばたちまち仏寒からず
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まだ暮果くれはてずあかるいのに、れつゝ、ちらちらとひともれた電燈でんとうは、つばめさかなのやうにながして、しづか谿川たにがはつた。ながれほそい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとり、唯、単に、一宇いちうの門のみ、生首にひともさで、さびしく暗かりしを、怪しといふ者候ひしが、さる人は皆人の心も、ことのやうをも知らざるにて候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
戀々れん/\として、彽徊ていくわいし、やうやくにしてさとくだれば、屋根やねひさし時雨しぐれ晴間はれまを、ちら/\とひるひともちひさむしあり、小橋こばし稚子等うなゐらうたふをけ。(おほわた)い、い、まゝはしよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さるほどに神月梓は、暗夜、町中まちなかひともした洋燈ランプを持って、荷車の前に立たせられて、天神下をかしこここ、角の酒屋では伺います、莨屋たばこやの店でも少々、米屋の窓でもちょいとものを。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木戸には桜の造花つくりばなひさしにさして、枝々に、赤きと、白きと、数あまた小提灯こぢょうちんに、「て。」「り。」「は。」と一つひとつ染め抜きたるを、おびただしくつるして懸け、夕暮には皆ひともすなりけり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日暮れて式場なるは申すまでもなく、十万の家軒ごとに、おなじ生首提灯の、しかもたけ三尺ばかりなるを揃うて一斉いっせいひともし候へば、市内の隈々くまぐま塵塚ちりづかの片隅までも、真蒼まっさおき昼とあひなり候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たもとを探ったのは、ここにひともしたのは別に、先刻さっきの二七のそれであった。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜に入ればこの巨象の両個のまなこに電燈をひともし候。折から曇天どんてんに候ひし。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)