濁酒どぶろく)” の例文
それはだ食べられたが、困ったのは酒を強いられた事で、その酒たるや、正月に造ったという濁酒どぶろくで、うじがわいているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
又右衛門は濁酒どぶろくの燗を熱く熱くと幾度も云ったそうである。茶屋の親仁おやじだから燗の事だけは確かに明瞭はっきりと覚えていたにちがいない。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
万年橋の鯨汁くじらじる。鯨一式で濁酒どぶろくを売る。朝の早いのが名物で、部屋で夜明しをした中間や朝帰りのがえんどもに朝飯を喰わせる。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
炉のすみ煉瓦れんがの上に、酒のはいった小さい土瓶どびんが置いてある。与平は、よごれたコップを取って波々と濁酒どぶろくをついで飲んだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
な、なんだっ、鍋底のあまり飯くらいが! 一合ばかしの濁酒どぶろくが! こう見えても、金などは腐るほど持っているんだ。餓鬼め、ガツガツするな。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ清酒が飲めないことになれば、私は濁酒どぶろくでやろうかと考えている。濁酒の味も捨てたものではない。濁酒を燗鍋で温めて飲むのも風雅なものだ。
濁酒を恋う (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
源介という駕籠舁かごかきが、いずれ濁酒どぶろくでも飲んだのであろう、秋だというのに下帯一つ、いいご機嫌で歩いていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだ荷もあけないうちから、濁酒どぶろくをひっかけに行っている若い衆もある。酔った揚句の張り高声をあげて、荷も忘れて、あちこち浮かれ歩いたりしている。
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
差配おおやさん苦笑にがわらいをして、狸爺め、濁酒どぶろくくらい酔って、千鳥足で帰って来たとて、桟橋さんばしを踏外そうという風かい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともそう言う女房は少しくらっていたようで、亭主の国府に張合って、朝から濁酒どぶろくでもあおったんでしょう
「また聞いたあの話、その晩の出来と不出来がお景物とやらで、梅に鶯、竹に虎、幽霊に柳、落語家はなしかに扇子、北風に濁酒どぶろく、こりゃもうみんなつきものでげして」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
しかし姓名も職業も不明であり、油屋は持って来た濁酒どぶろくと、なにかわからない野鳥の焼いたのをかじりながら濁酒を湯呑茶碗で飲み、りつ子をしきりにからかった。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
惣太がいま猪の肉を煮ていたのは、実は取って置きのその濁酒どぶろくを一杯やりたかったからであります。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この酒はどんなたちで、どう口当りがして、売ればいくらくらいの相場で、舌触りがぴりりとして、あと淡泊さっぱりして、頭へぴんと答えて、なだか、伊丹いたみか、地酒じざけ濁酒どぶろくかが分るため
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どの字も、どの字もが濁酒どぶろくにでも酔つ払つたやうに踊つたり、飜斗返とんばがへりをしてゐたりした。
騎兵二等大尉のポツェルーエフって……素晴らしい奴でね! 君、立派な髭を生やしてやがってさ! ボルドーのことを濁酒どぶろくって言やがるんだ。『こら、濁酒どぶろくを持ってこい!』とこうだ。
山田珠樹君は先頃たまたま、『彼は本は読めればよし酒は飲めればよし、といつた外道である』と、まるで僕を年中濁酒どぶろくを飲みながら、普及版ばかり読んでゐる書狼(ビブリオ・ルウ)扱ひにした。
書狼書豚 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
海底と見せた土間の上でのたうちまわり、自分でもゾッとするような『海盤車娘』の踊りや、見せたくない素肌をさらしたり、ときにはお景物まけ濁酒どぶろくくさい村の若者に身体を触らせたりしていました。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「昔は杏ジャムやポルトガルの濁酒どぶろくを売った小商人」
バルザックに対する評価 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
珍らしく濁酒どぶろくを呑んで酔った時
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
小酒屋めかした野天の腰かけ板へ、濁酒どぶろくと串焼をもらって、その串ザシの肉をくわえて、串をぽんと捨てながら。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等三人がこの八日市の酒場へ逃げ込むと、そこには土間の大囲炉裏おおいろりを囲んで、定連じょうれん濁酒どぶろくを飲んだり、芋をつついたりして、太平楽たいへいらくを並べている最中でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「日本全国だ」と竹中はめし茶碗で濁酒どぶろくを飲み、味噌漬の山牛蒡ごぼうをぼりぼりみながら云った
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、雲助のような髭面に、濁酒どぶろくの白いかすをたらし、あかい顔で何かわめいていた人達の姿が、いまでも私の眼の底に残っている。私にも一碗だけが裾分けとなったのである。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
香具師やしの懐中にも小判のかけらも見えないとすれば、早くもどこかへ隠したか、でなければ、横合から五千両をさらわれて、自棄やけのやん八で国府こくぶ濁酒どぶろくに贅を尽していたのだと睨んだのです。
堀の山城屋という店で、塩か福神漬をつまみながら濁酒どぶろくとか焼酎しょうちゅうなどを飲み、ぐでぐでに酔ってから家へ帰るのであった。——裏長屋の柱も傾きかかった家には、妻と娘が二人いた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一日尺八をふいて、人の門辺かどべに立っても、ようよう貰うところは、一炊ひとかしぎの米と濁酒どぶろくの一合のしろが関の山じゃ。……そ、それを無断であかの他人のおのれらに食われてたまろうか。かやせ! かやせ!
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堀の山城屋という店で、塩か福神漬ふくじんづけつまみながら濁酒どぶろくとか焼酎しょうちゅうなどを飲み、ぐでぐでに酔ってから家へ帰るのであった。——裏長屋の柱も傾きかかった家には、妻と娘が二人いた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
行者ぎょうじゃどん。濁酒どぶろくですかえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぶすっとそんなことを云って、濁酒どぶろく焼酎しょうちゅうを入れたのを取って、それをすぐには飲もうともせず、蒼黒あおぐろいような疲れた顔を俯向うつむけて、なにかぶつぶつ独りでつぶやいたり、なんども深い太息といきをしたりする。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「野郎はいつもその伝だ」と勇吉が濁酒どぶろくの茶碗に口をつけた。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)