潮風しおかぜ)” の例文
夫にしたがって毎日沖に出ている漁師の妻は、女とは思えぬほど陽にやけた顔をし、潮風しおかぜにさらされてかみの毛は赤茶けてぼうぼうとしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「いえ、おじょうさん、うみほうからいてくる潮風しおかぜで、オルガンがいたむからいったのです。」と、医者いしゃは、こたえました。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
艦隊の戦士たちは、言葉もなく、潮風しおかぜにヒラヒラとひらめく信号旗の文句を、心のうちに幾度となく、繰返し読んだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おきのほうから潮風しおかぜに吹かれて木の葉が二枚ひらひらと飛んできて、わしのそでにかかりました。それを手に取ってみると御熊野みくまのの山にたくさんあるなぎの葉なのです。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それが静かな潮風しおかぜに、法衣ころもの裾を吹かせながら、浪打際なみうちぎわを独り御出でになる、——見れば御手おてには何と云うのか、笹の枝に貫いた、小さい魚を下げていらっしゃいました。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あなたの姿すがたは、あのふねのほばしらのいただきに、潮風しおかぜかれて、ひるがえるあかはたのように、わたしむね血潮ちしおをわかせます。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
潮風しおかぜに吹き流されて。この島のいそにでも打ちあげれば、あまの子が拾うてたきぎにでもしてしまうだろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
我々の息吹いぶきは潮風しおかぜのように、老儒ろうじゅの道さえもやわらげました。この国の土人に尋ねて御覧なさい。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
てつぎんとでつくられた、一筋ひとすじせんながあいだうみうえからいてくる潮風しおかぜのために、いつしかさびて、れてしまったからです。たとえこのせんれても、オルガンはったのでした。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしまばらにえ伸びた草は何か黒いに出ながら、絶えず潮風しおかぜにそよいでいた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みんなは、毎日まいにち潮風しおかぜにさらされているとみえて、かおいろが、って、赤黒あかぐろかった。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、海の近い事は、まばらすすきに流れて来る潮風しおかぜが明かに語っている。陳はさっきからたった一人、と共に強くなった松脂まつやににおいを嗅ぎながら、こう云う寂しい闇の中に、注意深い歩みを運んでいた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小鳥ことりはなしによると、よく自分じぶん運命うんめいにもているといった、ふねのほばしらのいただきあかはたは、潮風しおかぜにさらされたり、あめや、かぜたれていろがあせたり、なみのしぶきによって、くろよごれがても
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)