橋桁はしげた)” の例文
武蔵は? ——と、見れば、矢矧の橋桁はしげたの陰へと、いちはやく跳んで、蝙蝠こうもりがとまったように、ぺたと身をかがめていたのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新し橋の袂に居る、ゐざりの申松が水死人になつて、兩國の橋桁はしげたに引つ掛つて居たと、土地の下つ引が知らせて來たのは、七月になつて間もなく
菊桐の紋のついたのがこう言って、忙がわしく橋桁はしげたの方へ近寄って、送り狼の身にからみつくようにした時、またもや橋上がにわかに物騒がしくなりました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そら! また見えた、橋桁はしげたに引っかかったよ。」と、欄杆に手をけて、自由に川中を俯瞰みおろし得る御用聴ごようききらしい小僧こぞうが、自分の形勝の位置をほこるかのように
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それからお茶の水橋を渡ろうとしたが、橋桁はしげたからまだ煙が出ていて危険なうえに、兵士が橋のたもとに針金を張って通行を遮断しているので昌平橋の方へと往った。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
車輪が分岐点ぶんきてんと噛み合っているらしくガタンガタンと騒々そうぞうしい音をたてたのと、車輌近くに陸橋のマッシヴな橋桁はしげたがグオーッとれちがったのとが同時だった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
橋のつけねには石が組んであるが、その石垣と橋桁はしげたのあいだに三尺ほどの隙間があり、二三の包の置いてあるのが見えた。おそらく、そこが老人たちの寝場所になるのであろう。
橋の下 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
初めは湖畔こはんに出て侵略者しんりゃくしゃむかった彼等も名だたる北方草原の騎馬兵きばへいに当りかねて、湖上の栖処すみかに退いた。湖岸との間の橋桁はしげたてっして、家々の窓を銃眼じゅうがんに、投石器や弓矢で応戦した。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
またいくつか里をこえてゆくと、橋普請の材木のみいたずらに道をふさいで、橋桁はしげたすらない所がある。小さい川ながらすこぶる足場がわるい。道からわりに深い川床へとおりて、すぐまた上る。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
きのうの豪雨で山の水源地は氾濫はんらんし、濁流滔々とうとうと下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵こっぱみじん橋桁はしげたを跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
源助は死後長く橋桁はしげたを守っていまだに源助柱という名が残っておると申す。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下総武蔵しもふさむさし国境くにざかいだという、両国橋りょうごくばしのまんなかで、ぼんやり橋桁はしげたにもたれたまま、薄汚うすぎたなばあさんが一ぴきもんっている、はなかめくびうごきを見詰みつめていた千きちは、とおりがかりの細川ほそかわ厩中間うまやちゅうげんたけろう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いでの橋」の朽ちかかつた橋桁はしげたのうへから
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
一人は逃げ出したが、よほどあわてたとみえて、橋桁はしげたたもとへ、盲とんぼのようにぶつかり、そのまま矢矧やはぎの大橋を、のめるように駈けて行った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船に縛り付け、橋桁はしげたを伝わって欄干まで登って、そこで念入りに縛り付けて、綱の端を切り落としたのち、死骸の首へ巻き付けた。綱の端をよく見て来るがいい
柑橘類かんきつるいの実の袋数。マッチの本数。花の花弁。電車のレール。橋桁はしげた。茶碗一杯のめし粒。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから二人は、焼け落ちた吾妻橋の上を手をつないで、川向うへ渡った。橋桁はしげたの上にも、死骸がいくつも転がっていた。下を見ると、赤土ににごった大川の水面に、土左衛門がプカプカ浮んでいた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身を橋桁はしげたへ貼りつけた途端に、彼は考えていたことだった。——で、いつまでも、息をこらしてじっとしていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は毅然きぜんと立ったままで、敵のたまけむりを睨んでいた明智方の足軽がしらは、こめかみの辺を撃ちぬかれて、橋桁はしげたからもんどり打って河中にち、ドボンと、大砲の弾が落ちたようなしぶきを揚げた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かばねは橋上を埋め、血は橋桁はしげたからしたたって、瀬田の流れをあかくした。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋桁はしげたへ立て。あれなる橋桁の上を進んで近々と射よ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橋桁はしげたにもたれたまま、般若はんにゃがやがてつぶやいています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)