ゑんじゆ)” の例文
庭には折よくゑんじゆの木が二枝ばかり咲いてゐる。蝉は私に老を知らせようとして鳴いてゐるのだが、併せて君にもお知らせするといふのがある。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ゑんじゆと云ふ樹の名前を覚えたのは「石の枕」と云ふ一中節いつちうぶし浄瑠璃じやうるりを聞いた時だつたであらう。僕は勿論一中節などを稽古するほど通人つうじんではない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かは可恐おそろしさに氣落きおちがして、ほとんこしたないをとこを、女房にようばういて、とほくもない、ゑんじゆ森々しん/\つた、青煉瓦あをれんぐわで、藁葺屋根わらぶきやねの、めう住居すまひともなつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゑんじゆの蔭の教へられた場所へ、私は草の上からぐさりと鶴嘴をたたきこんだ。それから、五分もすると、たやすく私は掘りあてた、私は土まみれの髑髏を掘り出したのである。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
短夜みじかよゑんじゆの虹に鳴く蝉の湿しめりいち早し今日も時化しけならむ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
僕はそのゑんじゆの若木を見、そのどこか図案的な枝葉えだは如何いかにも観世音菩薩くわんぜおんぼさつの出現などにふさはしいと思つたものである。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つたふ、むかし越山ゑつざん蜥蜴とかげみづつてへうく。ときふゆはじめにして、ゑんじゆもずほしさけんであられぶ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳶の声澄みつつ舞へれみささぎゑんじゆは枯れぬつかに槐は
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ゑんじゆこれに次ぐ。その代り葉の落ち尽す事早きものは、百日紅さるすべり第一なり。桜や槐のこずゑにはまだまばら残葉ざんえふがあつても、百日紅ばかりは坊主ばうずになつてゐる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「……ほたるだ、それ露蟲つゆむしつかまへるわと、よく小兒こどもうちはしわたつたつけ。ゑんじゆ可恐こはかつた……」
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
片面光るゑんじゆの葉両面光る柳の葉
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
親父おやぢだのお袋だのの稽古してゐるのを聞き覚えたのである。その文句もんくなんでも観世音菩薩くわんぜおんぼさつの「庭にとしゑんじゆこずゑ」に現れるとかなんとか云ふのだつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、丁度ちやうど一本ひともとふるゑんじゆしたで。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
片岡かたおかゑんじゆにあかり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)