“榛(はしばみ)” の例文
青年はその榛(はしばみ)の樹のそばの井戸の所在(ありか)を老人に訊いてみるが、老人はもう五十年もこの島にゐて、まだ井戸の水が湧き出すのを見ない。
鷹の井戸 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
榛(はしばみ)やロワンの樹のほそ枝でより曲げられた杖を造った、そして蘆(あし)の笛をふく盲目の乞食になって、月の昇ろうとする頃出て行った。
約束 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
こんどは路傍の榛(はしばみ)の木の枝で、大妖が親蜂を発見した。例によって時計を出して計ってみると、六分ばかり掛かって帰ってきた。
採峰徘菌愚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
さうすると、やたらに茨の棘(とげ)がひつかかり出して、道は深い榛(はしばみ)の叢みの中へはいるが、それでもかまはず、さきへさきへと行かつしやれ。
或(ある)ひは足下(おぬし)の目(め)の色(いろ)が榛色(はしばみいろ)ぢゃによって、そこで相手(あひて)が榛(はしばみ)の實(み)を噛割(かみわ)ったと言(い)ふだけの事(こと)で、鬪爭(けんくわ)を買(か)ひかねぬ。
二つの眼は漆黒(しっこく)の榛(はしばみ)のようで、鋭い輝きを放っているのは、大胆を示すものだと私は時どきに思うのであるが、それに恐怖の情の著るしく含まれたように
榛(はしばみ)の茂みや樅(もみ)の木立が道の両側に並んでいた。四方ふさがれた小さな世界に似ていた。前後の曲がり角で、道は宙に浮いてそこで終わってるかのようだった。
櫟(くぬぎ)、榛(はしばみ)などの落葉がからからに乾(ひ)からびて、一歩一歩踏んで行く草鞋をややもすると辷(すべ)らせようとする。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
小石川清水谷の坂を下ると、左手に樫や榛(はしばみ)の大樹が欝蒼と繁茂している——その高台が劫楽寺だ。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
風鈴草(ふうりんさう)、色(いろ)つぽい音(ね)の鈴、春ここにちりりんと鳴る、榛(はしばみ)の樹が作る筋違骨(すぢかひぼね)の下(した)に蹲(うづくま)る色よい少女(をとめ)。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
処はジル湖の大部を占める、榛(はしばみ)の林に掩はれた、平な島の岸である、其傍には顔の赭(あか)い十七歳の少年が、蠅を追つて静な水の面をかすめる燕(つばくら)の群を見守りながら坐つてゐる。
やがて時計が四時を打とうとしているので、にんじんは、矢も楯(たて)もたまらず、ルピック氏と、兄貴のフェリックスを起こすのである。二人は、裏庭の榛(はしばみ)の木の下で眠っていた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
葉をそよがせる柊(ひいらぎ)も常盤木も一本もないからだ。そして裸になつた山櫨(さんざし)も榛(はしばみ)の藪も、まるで道路の中央に敷いてある白い磨(す)り減らした石のやうに凝(じつ)と身動きもしないのであつた。
河の岸に生茂つた樺や榛(はしばみ)や「サツサフラス」の小枝を押し分け乍ら、岸に沿うて登つて行くに、樹々の枝に蔓を渡して、往方(ゆくて)の途に網を張つた、野生の葡萄が、折々足に搦んで、その困難
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
そこにはまた榛(はしばみ)の実が苔が附いて褐色をして、山と積み上げられていた。
禰宜 榛(はしばみ)(神職名(な))様がおっしゃる。樹(き)の枝へなりと掛けぬかい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狩猟小舎を建てた時榛(はしばみ)の木の炉縁(ろぶち)を作ったら
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
榛(はしばみ)の、やさしい森に繞られて。
岩と石の険しい道をのぼつて行くと、三本の榛(はしばみ)の樹がどんぐりを落し枯葉をおとす井戸があつた。
鷹の井戸 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
榛(はしばみ)といじけた小樫(こがし)とがまわりに茂ってる頂上の高台から見おろすと、木立のある斜面や、紫色の靄(もや)に包まれた樅(もみ)の梢(こずえ)や、青々とした谷間を流れるライン河の長い帯が見えていた。
御者(ぎょしゃ)は懶惰(ぶしゃう)な婢(はしため)の指頭(ゆびさき)から發掘(ほじりだ)す彼(か)の圓蟲(まるむし)といふ奴(やつ)の半分(はんぶん)がたも無(な)い鼠裝束(ねずみしゃうぞく)の小(ちひ)さい羽蟲(はむし)、車體(しゃたい)は榛(はしばみ)の實(み)の殼(から)、それをば太古(おほむかし)から妖精(すだま)の車工(くるまし)と定(きま)ってゐる栗鼠(りす)と蠐螬(ぢむし)とが製(つく)りをった。
榛(はしばみ)の茂みが家の土台ぎはから生ひはびこつて、池の汀へとすべり下りてゐる。
渋い林檎(りんご)がみんなちぎられ、榛(はしばみ)の実がことごとく割られる。
榛(はしばみ)ン中で。
蛇麻草(ホップ)の蔓が下では接骨木(にわとこ)やななかまどや榛(はしばみ)の繁みをすっかり枯らしてしまい、それから柵という柵の天辺を匍(は)いまわった挙句、上へよじのぼって、折れた白樺を半ばまでぐるぐる巻きにしている。
榛(はしばみ)のうつろの実