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極暑
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ごくしよ
此の
山の
上なる
峠の
茶屋を
思ひ
出す——
極暑、
病氣のため、
俥で
越えて、
故郷へ
歸る
道すがら、
其の
茶屋で
休んだ
時の
事です。
門も
背戸も
紫陽花で
包まれて
居ました。
嵐気漓る、といふ
癖に、
何が
心細い、と
都会の
極暑に
悩むだ
方々からは、その
不足らしいのをおしかりになるであらうが、
行向ふ、
正面に
次第に
立累る
山の
色が
真暗なのである。
私は、
先生が
夏の
嘉例として
下すつた、
水色の
絹べりを
取た、はい
原製の
涼しい
扇子を、
膝を
緊めて、
胸に
確と
取つて
車上に
居直つた。
而して
題を
採つて
極暑の
一文を
心に
案じた。
……
極暑の
砌、
見ても
咽喉の
乾きさうな
鹽辛蜻蛉が
炎天の
屋根瓦にこびりついたのさへ、
觸ると
熱い
窓の
敷居に
頬杖して
視めるほど、
庭のない
家には、どの
蜻蛉も
訪れる
事が
少いのに——よく
來たな