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ごくしよ
私は、
先生が
夏の
嘉例として
下すつた、
水色の
絹べりを
取た、はい
原製の
涼しい
扇子を、
膝を
緊めて、
胸に
確と
取つて
車上に
居直つた。
而して
題を
採つて
極暑の
一文を
心に
案じた。
……
極暑の
砌、
見ても
咽喉の
乾きさうな
鹽辛蜻蛉が
炎天の
屋根瓦にこびりついたのさへ、
觸ると
熱い
窓の
敷居に
頬杖して
視めるほど、
庭のない
家には、どの
蜻蛉も
訪れる
事が
少いのに——よく
來たな
其の北には祭事を扱ふ
御供所があり、其の東には形ばかりの
空濠に臨んで、
小ひさい牢屋があつた。