枕木まくらぎ)” の例文
忽ち真暗な広い道のほとりに出た。もと鉄道線路の敷地であったと見え、枕木まくらぎ掘除ほりのぞいた跡があって、ところどころに水が溜っている。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黒い枕木まくらぎはみなねむり、赤の三角さんかくや黄色の点々、さまざまのゆめを見ている時、若いあわれなシグナルはほっと小さなためいきをつきました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何處どこへ行きますのやなア。』と、お光は黒い油のみ込んだ枕木まくらぎの上を氣味わるさうに踏みつゝ、うしろから聲をかけた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その後また同じ山中に枕木まくらぎ伐出きりだしのために小屋をかけたる者ありしが、夕方になると人夫の者いずれへか迷い行き、帰りてのち茫然ぼうぜんとしてあることしばしばなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
寝室と書斎とをかねて一つきりの室だった。鉄の狭い寝台が、窓ぎわの壁に押し寄せてあった。枕木まくらぎの上に幾つも枕の重ねてあるのが、クリストフの眼に止まった。
路の一方にはトロッコのレールが敷かれてある。其処そこ此処ここで人夫がレールや枕木まくらぎを取りはずして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なほ人智じんちがいよ/\發達はつたつ人口じんこうがどん/\すにつれて、最後さいごには奧山おくやままでもつて家屋かおく橋梁きようりよう器具きぐ機械きかい汽車きしや電車でんしや鐵道てつどう枕木まくらぎ電信でんしん電話でんわはしらといふように
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
すると土を積んだトロッコのほかに、枕木まくらぎを積んだトロッコが一りょう、これは本線になるはずの、太い線路を登って来た。このトロッコを押しているのは、二人とも若い男だった。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
線路脇の焼いた枕木まくらぎさくに接近した六畳と四畳半ぐらいの小さな家だったが、その六畳の方には五人家内かない沖仲士おきなかしか何かの一家族が住み、私達は四畳半の間に住むことになっていた。
崖下の道の、崖と反対の方は、雑草ざっそうのはえしげった低いつつみが下の方へおちこんでいて、その向うに、まっ黒にこげた枕木まくらぎ利用のかきがある。その中にはレールがあって、汽車が走っている。
透明猫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
枕木まくらぎとレールだけが梯子はしごのように浮かび上っているところもある。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
横たわっている材木の枕木まくらぎの奥に、薊は、すくみこんでいた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よ、鉄道てつだう枕木まくらぎ
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
雫石しづくいし、橋場間、まるで滅茶苦茶だ。レールが四間も突き出されてゐる。枕木まくらぎも何もでこぼこだ。十日や十五日でぁ、一寸ちょっとむつぃな。」
化物丁場 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが土工たちは出て来ると、車の上の枕木まくらぎに手をかけながら、無造作むぞうさに彼にこう云った。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いままどの右手にえぞ富士ふじが見える。火山だ。頭がひらたい。いた枕木まくらぎでこさえた小さな家がある。熊笹くまざさしげっている。植民地しょくみんちだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
冬がれの木や、つみかさねられた黒い枕木まくらぎはもちろんのこと、電信柱でんしんばしらまでみんなねむってしまいました。遠くの遠くの風の音か水の音がごうと鳴るだけです。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その霧をとおして、月のあかりが水色にしずかにり、電信柱も枕木まくらぎも、みんなしずまりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
枕木まくらぎはうすい灰色曲ったり間隔もずゐぶん不同だ。水がたしかに下を流れてゐるけれどもおれはそれを見ようとはしない。気にかゝるのはかへって南のトークォイスの光の板だ。
山地の稜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)