最寄もより)” の例文
その後再び東京へ転住したと聞いて、一度人伝ひとづてに聞いた浅草あさくさ七曲ななまがり住居すまい最寄もよりへ行ったついでに尋ねたが、ドウしても解らなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
最初に兄が一家を構えたのは根岸最寄もよりで上野御隠殿下ごいんでんしたの線路のすぐそばの新築の家でした。上野の坂下の方から曲り曲って這入はいるのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
奪われ全く忘れたる如し独り忘れぬは最寄もより警察の刑事巡査なり死骸の露見せし朝の猶お暗き頃より心を此事にのみゆだね身を此事にのみ使えり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そして屋上庭園から、建物の裏手の出張りやひさしを伝わって、辛うじて下へ飛降り、一目散に最寄もよりの警察署へ駆け込みました。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この時ただちに、最寄もよりの派出所なり自働電話なりへ駈けつけるのが当然であった。併し、彼は再び機会を失してしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
書生二人を引従ひきしたがえ、御前様のお出先は、何しろ四谷、最寄もより近所は草を分けても穿鑿せんさくせんと、ステッキを携え、仕込杖しこみづえを脇挟み
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お城に続いてる古い森が大層広いのを幸いその後鹿しかうさぎを沢山にお放しになって遊猟場ゆうりょうばに変えておしまいなさり、また最寄もより小高見こだかみへ別荘をお建てになって
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
花道には、ひとつきん何十銭也船橋何某様、一金何十銭也廻沢何某様と隙間すきまもなくびらをった。引切りなしに最寄もよりの村々から紋付羽織位引かけた人達がやって来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
四角に並べてある机に師弟二十余名着席すると、喜楽亭という最寄もよりの西洋料理屋が出張していて、洋食の皿が廻る。汚れた壁や凸凹した机に調和しない御馳走だ。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
刺された方は血みどろになつて最寄もよりの医院へつれこまれたが、それを見てからはさすがに私も、その酒場だけは足遠くなつた。概して新橋界隈は柄がよくなかつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
最寄もより々々の城から招いて連歌一座所望したいとか、発句ほっく一首ぜひとか、しかもそれがあす合戦に出かける前日に城内から所望されたなどという連歌師の書いた旅行記がありますよ。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
次に行われるジプシー・ダンスを見学しようとして最寄もより最寄もよりへ出て行ったあと、お角は秘蔵の娘分のお梅まで出してやったものですから、この盛んな、この広い、この気忙しい中で
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蜃気楼は海にも陸にも現ずる故最寄もより最寄で見た変な動物をその興行主が伝えたので
九段坂の最寄もよりにけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人ひとりの男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして最寄もよりの巡査派出所へ寄つて、相手の住居すまゐを確めると
も所々相探あひさがし候へ共一向に知れ申さず尤も下伊呂村しもいろむらの河原に男女の死骸これある趣きに付樣子やうすたづね候處夫は最寄もよりの百姓夫婦なりとか申ことゆゑ其外には心あたりも御座なくと申にぞ大岡殿然樣さうして其松五郎の出生は何國にて平常ふだんの行状は如何なる者なるぞと有に八藏されば其松五郎儀は信州伊奈郡の者とのみ申居しが道中馬士などは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは化かすという意味ではない、油揚あぶらげにも関係しない、芸妓が拝むというでもないが、つい近所の明治座最寄もよりに、同一おなじ名の紋三郎というお稲荷様があるからである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
砂利じゃり玉石たまいしは玉川最寄もよりから来るが、沢庵たくあん重石おもし以上は上流青梅あおめ方角から来る。一貫目一銭五厘の相場そうばだ。えらんだ石をはかりにかけさせて居たら、土方体どかたていの男が通りかゝって眼をみは
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
最寄もより区役所は取敢とりあえず溺死漂着人と見做みなして仮に埋葬し新聞紙へ左の如く広告したり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
姉妹の娘に料理を教えに行く荒木家蛍雪館のある芝の愛宕台あたごだいと自宅のある京橋区の中橋広小路との間に相当の距離はあるのだが、彼は最寄もよりの電車筋へも出ずゆっくり歩るいて行った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この時最寄もよりの交番より巡査真黒まっくろになりて駈附かけつけつ、暴行を制せんとすれば、お丹先んじて声を懸け
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一旦夫人のなさけに因って、八方へのがれた、万綱の配下の兇賊、かねて目指されたすうをあまさず、府、県、町、村、いうに及ばず、津々浦々にいたるまで、最寄もより々々に名告なのって出た。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたし? 私はきその停車場ステイション最寄もよりところに、」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)