昼餉ひるげ)” の例文
旧字:晝餉
半之助はちょうど、岩の食卓で、昼餉ひるげを喰べているところだった。下の林のほうで、がさがさと叢林そうりんの揺れる音がし、人の声が聞えた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昼餉ひるげを食うて出よとすると偶然秀真ほつまが来たから、これをもそそのかして、車を並べて出た。自分はわざと二人乗の車にひとり横に乗った。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
これは子のひじりという有名な上人しょうにんが、初めてこの山に登った時に、ここで休んで、昼餉ひるげに用いた杉箸を地にさして行ったと伝えております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昼餉ひるげののち、師父しふが道ばたの松の樹の下でしばらくいこうておられる間、悟空ごくう八戒はっかいを近くの原っぱに連出して、変身の術の練習をさせていた。
相手が何とかいうのを振向きもせずに店を出た。雨は小休おやみなく降り続けていた。昼餉ひるげの煙が重く地面の上をっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ナム駅の変遷 その日はネータンという所で昼餉ひるげを済まし、それより二里半ばかり行きますとナムという村があります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昼餉ひるげとうべにとて立寄りたる家の老媼おうなをとらえて問いただすに、この村今は赤痢せきりにかかるもの多ければ、年若くさかんなるものどもはそのためにはしり廻りて暇なく
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日はあたかも家の真上にありて畑の人は皆昼餉ひるげに急げり、と見れば向うの路より一個の旅人、大いなる布の包みを負いて此方に歩めり、ようやくに近くなれり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
マダムは昼餉ひるげのテーブルに鶴子を案内して、亡夫の遺著を編輯へんしゅうするについて、第一に社寺または古器物の写真の不足しているのを補うためにこれを買集める事
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
念の上にも念を推してやうやくに立上り、辻車の安価なるがある処までと長吉を伴につれ、持たせたるささやかなる風呂敷包の中には、昼餉ひるげの弁当もありと見ゆ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
此処から峠の上まで二里半であるという。二時半豆焼沢に着いて、お茶を煮ながら昼餉ひるげの残りを平げる。道がまた登りになって尾根をえると小さな沢を渡った。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼はひとり隣室に入って、煙草を吸った。障子一重隔てて、台所では義母が昼餉ひるげ仕度したくをしていた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
或日あるひ昼餉ひるげを終えると親はあごを撫でながら剃刀を取り出した。吉は湯を呑んでいた。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
須坂にて昼餉ひるげ食べて、乗りきたりし車を山田までがせんとせしに、いなみていう、これよりはみちけわしく、牛馬ならではかよいがたし。偶〻牛きて山田へ帰る翁ありて、牛のせな借さんという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
病房びょうぼうから昼餉ひるげののちの暫時しばらくここへ遊歩に解放されて居るのだとわかりました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昼餉ひるげ過ぎいくらたぬを木群こむらには早やしろじろとかかる夕霧
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昼餉ひるげぞとよばれて焚火してりて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其処で昼餉ひるげを終へて後写生に取り懸つたが大略の輪郭を定めるだけにかなりに骨が折れて容易には出来上らない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
新泉と二人でいちど遊びに来いと云われ、二人で訪ねて昼餉ひるげを馳走されたが、こっちへ来るとすぐ結婚されたそうで、やさしそうな妻女と小さな男の子がいた。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
戸数は九百ばかりなり。とある家に入りて昼餉ひるげたべけるにあつものの内にきのこあり。椎茸しいたけに似てかおりなく色薄し。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昼餉ひるげの時にはあかねさしたさるとりいばらの滑かな茎で箸を造る慣わしであるが、何処か山の色に似た懐しい色合を持っているのが気に入った。七つ下りになると人より先に帰って来る。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
姉は皆の顔を見ると、「あれも子供達に食べさせたいばっかしに、自分は弁当を持って行かず、雑炊食堂を歩いて昼餉ひるげをすませていたのです」と泣いた。義兄は次の間に白布でおおわれていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
昼餉ひるげには庭の芝生にぢかに坐りわが眼先まなさきのかきつばたの花
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
三の戸、金田一、福岡ふくおかと来りしが、昨日きのう昼餉ひるげたべはぐりてくるしみければ今日はむすび二ツもらい来つ、いで食わんとするに臨み玉子うる家あり。価を問えば六りんと云う。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まあそれは」と志保は縁端へ出て残念そうに云った、「さぞお萱が残念がることでございましょう、今日はお昼餉ひるげになにか差上げたいと用意していたようでございますのに」
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひるに戻ってふたりの昼餉ひるげをつくり、終るとすぐにまたひきかえしてゆく、夕暮れに帰って、晩の食事をとり、そのあとを片付けると、解きものや縫いもの洗濯などのこまごました用事が待っている
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)