)” の例文
旧字:
行くこと百歩、あのくすの大樹の鬱蓊うつおうたる下蔭したかげの、やや薄暗きあたりを行く藤色のきぬの端を遠くよりちらとぞ見たる。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平常いつものように平気の顔で五六人の教師の上に立ち百の児童を導びいていたが、暗愁の影は何処どことなく彼に伴うている。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
越後の西北は大洋おほうみたいして高山かうざんなし。東南は連山れんざん巍々ぎゝとして越中上信奥羽の五か国にまたがり、重岳ちようがく高嶺かうれいかたならべて十里をなすゆゑ大小のけものはなはだおほし。
ず入口に黒髪を振乱ふりみだしてよこたわっているのはのお葉で、彼女かれは胸や肩やのどヶ所の重傷を負っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昨日一昨日おとといまでは礫一つ打つことならざしり泉水せんすいの、尺余の鯉を、思ふまゝに釣り勝ち取り勝ちし得べき、公開? 釣堀と変りたることなれは、百の釣手、千の見物の、蟻集麕至ぎしゅうくんしせしも
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
シニヨリヤの狭い広場がづ面白い。昔も今も市の中心として百の男女なんによが常にうようよとして居る前に、十四世紀初期の建築の粗樸そぼくな外観をもつて城の如く屹立きつりつして居るのは、ヹツクチオ邸だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
これで思出おもいだしたが、この魔のやることは、すべて、笑声わらいごえにしても、ただ一人で笑うのではなく、アハハハハハとあだか百人の笑うかの如きひびきをするように思われる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ物をるに眼力がんりきかぎりありて其外そのほかを視るべからず。されば人の肉眼にくがんを以雪をみれば一片ひとひら鵞毛がまうのごとくなれども、十百へん雪花ゆき併合よせあはせて一へんの鵞毛をなす也。
〽さしもにたけき兵助が、切れども突けどもひるまぬ悪党、前後左右に斬りむすぶ、カ所の疵にながるる血潮、やいばを杖によろぼいながら、ええ口惜しや——。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
がたがた音がした台所も、遠くなるまで寂寞ひっそりして、耳馴れたれば今更めけど、戸外おもて万のかわずの声。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松明の光を便宜たよりにして、ここぞと思うあたりの岩穴を一々検査すると、岩壁を穿うがったる横穴はヶ所にひらかれていた。が、穴の天井は極めて低いので、到底とても真直まっすぐに立っては歩かれぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)