放火つけび)” の例文
中やすみの風が変って、火先が井戸端からめはじめた、てっきり放火つけびの正体だ。見逃してやったが最後、直ぐに番町は黒焦くろこげさね。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細作かんじゃの名手、放火つけびの上手、笛の名人、寝首掻きの巧者、熊坂長範くまさかちょうはん磨針太郎すりはりたろう壬生みぶの小猿に上越うえこすほどの、大泥棒もおりまするじゃ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「一寸類のない惡黨だよ。放火つけびに出かける前に、岡つ引の家へ初七日の配り物をさせて、小僧に俺の居るのを見屆けさせたのは藝が細かい」
伝通院地内でんつういんちない末寺まつじ盗棒どろぼう放火つけびをした。水戸様時分に繁昌はんじょうした富坂上とみざかうえの何とか云う料理屋が、いよいよ身代限しんだいかぎりをした。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
放火つけびは流行る。将軍家は二月に上洛、六月に帰府、十二月には再び上洛の噂がある。猿若町さるわかまちの三芝居も遠慮の意味で、吉例の顔見世狂言を出さない。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ア、痛ッ、ではお前様に限って申し上げてしまいます、神尾の殿様は生捕いけどられておしまいなすったのでございます、あの晩、放火つけびに来たやつらが神尾の殿様を
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「オオ寒! なんにしても業腹ごうはらだ。ひとつそこらへ放火つけびをして、この埋めあわせをしようじゃアねえか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しからぬ」青木はもう真赤になって口ごもりながら、「わ、我輩が放火つけびでもしたと云われるのか」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「川越しに、金座から放火つけびでもしたわけでもありますまい、それが、なぜ妙なんで」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
といったって、いきなり放火つけびしたって役には立たない。その前に、種々いろいろなことを云いふらし、稲葉山城の義龍や家来が、不安なきざしを起した頃、風のつよい夜をはかって、この城下を火の海にする。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実において人殺しもすれば放火つけびもして居る、その目的を尋ねて見ると、仮令たといこの国を焦土にしてもくまで攘夷をしなければならぬと触込ふれこみで、一切いっさい万事一挙一動ことごとく攘夷ならざるはなし。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人を斬ったり放火つけびをしたり。嫌な気持やオカシナ所業しわざを。あたり八方ひろげてサラゲル。人の姿の犬畜生だよ。人間扱いするには及ばぬ。ドンナ手酷てひどい仕置きをするとも。石やかわらの投げ撃ちしても。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
放火つけび流行はやるツて言ふが、一体うしたんです?」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
放火つけびしやがったか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
吹雪ふゞきに、なんつてそとようと、放火つけび強盜がうたう人殺ひとごろしうたがはれはしまいかとあやぶむまでに、さんざんおもまどつたあとです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
放火つけび殺人ひとごろし誘拐かどわかし、詐欺——と云ったような荒っぽいことを、日常茶飯事といたしている、極めて善良な正直者たちで」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「成程ね。——ところで、親分は三村屋の放火つけびばかり氣にして居るが、三軒共同じ奴がやつたのなら、放火狂野郎つけびやらうは外に居るんぢやありませんか」
大勢の客が入り込んで、ほとんど夜あかしの商売ですから、自然に火の用心もおろそかになって、火事を起し易いことにもなるんですが、時には放火つけびもありました。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「有害無益の火——世に無害有益の放火つけびというのもあるまいが」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
放火つけびなのですか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「火沙汰、火沙汰! どうせ、ゆすりのかたりのと、気の利いた役者じゃありませんや、きっと放火つけびだ、放火だ、放火だ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほどね。——ところで、親分は三村屋の放火つけびばかり気にしているが、三軒とも同じ奴がやったのなら、放火狂野郎つけびやろうほかに居るんじゃありませんか」
切り取り強盗おしこみ、闇討ち放火つけび、至る所に行なわれ巷の辻々には切り仆された武士のかばねが横たわっていたりまた武家屋敷の窓や塀には斬奸状が張られてあったり
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「金助どの、あれは一体、放火つけびか、それともそそう火か」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何と言って外へ出ようと、放火つけびか強盗、人殺ひとごろしに疑われはしまいかとあやぶむまでに、さんざん思いまどったあとです。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それとも、大黒屋と小熊屋の放火つけびの話を聽いて、他の奴が眞似をする積りで三村屋へ放けたのなら、これは話が別だ。——俺は矢張り後の方だらうと思ふよ」
『焼き打ちだ焼き打ちだ! 放火つけびだ! 放火だ!』とそういう声がまず聞こえて
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いえ、頂こうというんじゃねえんで、そんな時だ、わっしあ、お嬢さんにどうにかすらあ。盗賊どろぼうでも、人殺でも、放火つけびでも何でもすらあ。ええ、お嬢さん、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上あの晩、三村屋の裏で仲吉を見掛けた者もあるし、翌る日仲吉は、焼跡から放火つけび道具を拾って、人目に隠れて焼き捨てている——これじゃまぬかれようはない
「拙者が放火つけびいたしたからでござる」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何でもそいつらを手馴てなずけて、掏摸すり放火つけびを教えようッていうんです。かかったもんじゃありませんや。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、もう一つある——、昨夜の火事は、杵太郎さんとお葉さんを燒き殺さうとした放火つけびだが、あの離屋には、外から心張棒をかつて、内からは開けられないやうに仕掛けてあつた」
そればかりでも家は焼けるのに、卑怯ひきょうな奴で、放火つけびが出来ない。第一の事を、と松に這寄った時、お優さんの唄が聞こえましたのは——発狂したのでしょうのに——
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私もさう思つて、一應八五郎を押へました。放火つけびの現場を見付けたわけでもないのに、火元が寺方に多いからと、いきなり切支丹詮索せんさくをするのは、少しむごたらしいやうにも思ひますので」
盗賊どろぼうは自由かも知れん、勿論罪になる。人殺、放火つけび、すべて自由かも知れんが、罪になります。すでにその罪を犯した上は、相当の罰を受けるのがまた当前あたりまえじゃありませんか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私もそう思って、一応八五郎を押えました。放火つけびの現場を見付けたわけでもないのに、火元が寺方に多いからと、いきなり切支丹詮索をするのは、少しむごたらしいようにも思いますので」
下町、山の手、昼夜の火沙汰ひざたで、時の鐘ほどジャンジャンとつける、そこもかしこも、放火つけびだ放火だ、と取り騒いで、夜廻りの拍子木が、枕に響く町々に、寝心のさて安からざりし年とかや。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従って、過ち火、放火つけびに対する、江戸の法律の苛酷さは想像以上でした。
「まあ、放火つけび。」