放免ほうめん)” の例文
が、すぐにわたしは放免ほうめんされた。そのまま何のこともなく教場へ入ることを許された。——素直にその「抗議」がれられたのである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そこで、戸の隙間すきまから、そっと外を覗いて見ると、見物の男女なんにょの中を、放免ほうめんが五六人、それに看督長かどのおさが一人ついて、物々しげに通りました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
およそ今日の、そんな風儀こそ、六波羅の狭量がそそる放免ほうめん(密偵)根性と申すもので、いやしむべきおせッかいであるまいか。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話をしてしまうと、わたしはほとんど優しくなっていたかれの態度たいどから、すぐにもわたしたちを放免ほうめんしてくれるかと思った。
わたしは、十ねん、二十ねん牢獄ろうごくにあった囚徒しゅうとが、放免ほうめんされたあかつき日光にっこうのさんさんとしてみなぎる街上がいじょうへ、されたときのことを想像そうぞうしたのであります。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
氏の挙動きょどうも政府の処分しょぶんも共に天下の一美談びだんにして間然かんぜんすべからずといえども、氏が放免ほうめんのちに更に青雲せいうんの志を起し、新政府のちょうに立つの一段に至りては
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
放免ほうめんだ。暗室の怪業から放免されたのだ。道夫は大よろこびで椅子から下りて、元の明るい洋間へ移った。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生徒の言草いいぐさもちょっと聞いた。追って処分するまでは、今まで通り学校へ出ろ。早く顔を洗って、朝飯を食わないと時間に間に合わないから、早くしろと云って寄宿生をみんな放免ほうめんした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう二年まてば、立派に放免ほうめんされる身の上だったのです。ところが、魔がさしたというのでしょう。私はもう娘がかわいそうで、いじらしくて、どうにも、二度と刑務所へ帰る気になりませんでした。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それに、もっとも、いやなことには、職掌がら、配下に「放免ほうめん」だの「はし下部しもべ」などという、ふだつきの雑人ぞうにんを、手あしに使っていることだ。
その時、受けた傷の跡は、今でもおれの胸に残っている。が、それよりも忘れられないのは、おれがその時始めて、放免ほうめんの一人を切り殺した事であった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれらがこれを証明しょうめいすることさえできたら、あのあわれな犬が、わたしのためにつごう悪く提供ていきょうした無言むごんの証明があるにかかわらず、放免ほうめんになるかもしれない。
榎本氏が主戦論をとりて脱走だっそうし、ついに力きてくだりたるまでは、幕臣ばくしん本分ほんぶんそむかず、忠勇の功名なりといえども、降参こうさん放免ほうめんのちに更に青雲の志を発して新政府のちょう富貴ふうきを求め得たるは
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
といって、あっはははとわらっていると、そのうちに巡査じゅんさがくる。さっそくみょうおとこは、盗賊とうぞくとまちがえられて警察けいさつれられていきましたが、まったくの盗賊とうぞくでないことがわかって、放免ほうめんされました。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、本来の武士一色右馬介と、放免ほうめん上がりの大蔵とでは、ここでも格段な腕力の違いがすぐ出てしまった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
放免ほうめんをしているおれには、獄中の苦しさが、たれよりもよく、わかっている。おれは、まだ筋骨のかたまらない弟の身の上を、自分の事のように、心配した。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
判事はんじが子どもをれて寺へはいったどろぼうの捕縛ほばくを待つために、わたしはとうとう放免ほうめんされなかった。
一等いっとうげんじてこれを放免ほうめんしたるは文明の寛典かんてんというべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
で、昨日から、六波羅兵と放免ほうめん(密偵)どもの、煮炊にたきの跡や馬糞やらで、そこは狼藉ろうぜきを極めていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれが右のひとや放免ほうめんをしていた時の事を思えば、今では、遠い昔のような、心もちがする。あの時のおれと今のおれとを比べれば、おれ自身にさえ、同じ人間のような気はしない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「——その怪しい男が、万一、六波羅の放免ほうめん(密偵)でもあったら、なおさらのことよ。例の遊宴に阿呆を尽して、文談会の世上の聞えを、人にまぎらわすが何よりの策」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何さま、悪く放免ほうめんの手にでもかかろうものなら、どんな目にうかも知れませぬ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
辻見張つじみはりは、即夜に行われ、検非違使けびいしの手もうごき、刑部付きの放免ほうめん(後の目明めあかしの類)も、洛外の山野、部落まで、ぎあるいているが、なんの手がかりも、もたらさない。
検非違使に問われたる放免ほうめんの物語
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「豊田領へ、放免ほうめん(密偵)を入れてみれば、すぐわかる。もう疑う余地などあるもんですか」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——年暮くれの頃よりく承知いたしておる。野州足利ノ庄のおん曹司が、忍び上洛しておらるるとは、世間は知らいでも、それがしの耳目じもくとなっておる放免ほうめん(目明し)どもはみな賢い奴、すぐぎ知って来たことでおざる」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でなければ放免ほうめん(密偵)か。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)