捨児すてご)” の例文
旧字:捨兒
伊之助は悪い男じゃないが、酒が好きで、仕事が嫌いだから、五年前捨児すてごに付いていた金を呑んだ上、かなりの借金が出来たんだろう。
博士は捨児すてごだったんだ。たしかに東洋人にはちがいないが、両親がわからないから、日本人だか中国人だか分らないといっている
太郎右衛門が子供を拾ったといううわさが村中一杯にひろがりました。夕方になると村の神さんたちや子供たちがぞろぞろそろって捨児すてごを見に来ました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
鹿之介たちのたてこもっていた前衛基地上月こうづきの城に、秀吉の救援をとどめ、みすみすそれを敵中へ捨児すてごとしてしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の赤児あかごをば捨児すてごのやうに砂の上に投出してゐると、其のへんにはせた鶏が落ちこぼれた餌をも𩛰あさりつくして、馬の尻から馬糞ばふんの落ちるのを待つてゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母様おつかさんもまたそばからまあ捨児すてごにしては可哀想かあいさうでないかツて、おきなすつたら、ぢいさんにや/\とわらつたさうで
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
当時信行寺の住職は、田村日錚たむらにっそうと云う老人でしたが、ちょうど朝の御勤めをしていると、これもい年をした門番が、捨児すてごのあった事を知らせに来たそうです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じつと目を閉ぢようと為たが、目を閉ぢると、此の広い荒れ果てたてらに唯つた独り自分のると云ふ事が、野のなか捨児すてごにでも成つた様に、犇々と身にせまつてさびしい。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
もう今年で足掛七年、あゝ飛んだ事をしたと身体に油の如き汗を流し、ことには又其の本郷菊坂下へ捨児すてごにしたというのは、七年以前、お賤が鉄砲にて殺した土手の甚藏に違いない
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから、最早如何様どんなに言っても学校には行かない。始終家で遊んで居る。一度「おっかあ、捨児すてごってどうするの」と聞いたが、母が心をいたむる様子を見てからは、もう何も聞かぬ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
可哀そうに捨児すてごだが、誰がこんな処に捨てたのだろう。それにしても不思議なことは、おまいりの帰りに私の眼にとまるというのは何かの縁だろう。このままに見捨みすてて行っては神様の罰が当る。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「気ちがいのつぎが、捨児すてごか……すこし、さずかりものが多すぎるようだな」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どこか遠国とおく移転ひっこすふりや。知らぬ処の病院さして。入れに行く振り人には見せて。又と帰らぬ野山の涯へ。泣きの涙で患者を棄てます。なれどコイツは捨児すてごと違うて。拾い育てる仏は居ませぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お秋は丑松を嫌ってはいるが、捨児すてごを拾って育てられた恩があるから、蔭じゃ丑松をかばっていますぜ。
無官太夫敦盛むかんのたゆうあつもりの死後、その妻が乳呑児ちのみごかくすにもよしなく、この下り松の根元へ捨児すてごしたのを、黒谷の法然上人ほうねんしょうにんが拾い上げて育てたということが、名跡志に載っている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荷車の後押しをする車力しゃりきの女房は男と同じような身仕度をして立ち働き、その赤児あかごをば捨児すてごのように砂の上に投出していると、そのへんにはせた鶏が落ちこぼれた餌をも𩛰あさりつくして
勝「こん畜生ちきしょう手前てめえのような野郎が捨児すてごをするんだ、薄情の頭抜ずぬけッてえば」
なお水菓子が好きだと云う、三歳みッつになる男のの有ることを、さきくだりにちょっと言ったが、これは特に断って置く必要がある、捨児すてごである。夜半よなかに我が軒に棄てられたのを、拾い取って育てている。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でも捨児すてごだっていうじゃありませんか。捨児を拾ったのなら、出入りのお屋敷とは限りませんぜ」
彼は、新宗教を邪視していたひとりなので、捨児すてご長屋と同じように
菊坂下の豆腐屋の水船みずぶねの上へ捨児すてごにして、私はぐ上総の東金へ往って料理茶屋の働き女に雇われて居る内に、船頭の長八ちょうはちという者といゝ交情なかとなって、また其処そこをかけ出して出るような事に成って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
捨児すてごしろ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)