ごしら)” の例文
まだ警察から下渡さげわたされず、仏壇の前の白布で覆われた台には急ごしらえの位牌いはいばかりが置かれ、それに物々しく香華こうげがたむけてあった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっとも常に足ごしらえがよければそんな患いもないのだが、草鞋を毎日新しく買うのも惜しく、又、買うにも買えない日の方が多いのである。
「ジーナが仕度してますから、お食事、もうちょっと待って下さいね……わたしたち、一日交替で食事ごしらえしてますのよ」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
つかいはや間のひまにはお取次、茶の給仕か。おやつの時を聞けば、もうそろそろ晩のお総菜ごしらえにかかって、米をぐ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我邦の妻君は食物ごしらえをさも余計な仕事のように蒼蠅うるさがってどうしたらちょこちょこと早く副食物おかずが出来るだろうと手数を省く工風ばかりしている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
……三度の食事ごしらえも、すすぎ物も縫い針も、決して吉村の母の手は藉りなかったし、「いいから」と云われるのを押して、毎夜より女の肩腰をんだ。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ごしらえの襁褓を作っておしもの世話をしようと布団の裾へ手をかけますと、いくらか朦朧とした意識にもそれを感じて、しびれたような手で布団を叩き
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
途中で充分足ごしらえをし、まず茅野宿ちのじゅくまで歩いて行き、そこから山路へ差しかかった。薬沢くすりさわ、神之原、柳沢。この柳沢で夜を明かし翌朝は未明に出発した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ごしらえを厳重にして、男の方と一緒に行くのです。女はほかのお方もおいでやしたけれど、わたしのようではありまへんでした。もうまるで男と同じことです。
絵だけ (新字新仮名) / 上村松園(著)
塙代家の家宝、銀ごしらえ、金剛兵衛盛高こんごうへえもりたか、一尺四寸の小刀をひっさげて、泥足袋のまま茫然と眼を据えていた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其の時店先へ立止りました武士さむらいは、ドッシリした羅紗らしゃ脊割羽織せわりばおりちゃくし、仙台平せんだいひらはかま黒手くろて黄八丈きはちじょう小袖こそで、四分一ごしらえの大小、寒いから黒縮緬の頭巾をかぶ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのいわくありげな壺はこのにわかごしらえの父が、預かってやる。父と子と、仲よく河原の二人暮しだ。親なし千鳥の其方そのほうと、浮き世になんの望みもねえ丹下左膳たんげさぜんと、ウハハハハハ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
華やかな幕を沢山吊るした急ごしらえの小屋掛が出来て、極東曲馬団の名がかけられ、狂燥なジンタと、ヒョロヒョロと空気を伝わるフリュートの音に、村人は、おいも若きも、しばし
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いずれの要害も堅固であるから、容易には落ちまい。ただ、中川瀬兵衛守る処の大岩山は、急ごしらえで、壁など乾き切らない程である。此処を不意に襲うならば、破れない事はあるまい」
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「君いい家庭婦人になれると言うなら、食べものごしらえもしてみるといいよ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ごしらえの高座に上がって話し、話し終ると、小僧が十基の燭台にけた蝋燭を、一つずつ消しますが、始めのうちは、その計画の物々しさと、話の馬鹿馬鹿しさに、二た部屋に溢れる聴き手も
文次郎は足ごしらえをして徒歩かちで付いて来た。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女は水を汲み、めしごしらえをし、掃除も洗濯もし、買い物もした。平さんは彼女の炊いためしを喰べるし、洗濯してくれた物を着、のべてくれた夜具で寝た。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
王城にし、左右の大臣を任命したり、一夜ごしらえの文官武官に、勝手な除目を与えて、その勢威は、ほんとうの天子のようだという噂が、都じゅうに拡がった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて前回にべました文治郎と亥太郎の見附前の大喧嘩は嘘らしい話ですが、神田川かんだがわ近江屋おうみやと云う道具屋のうちに見附前の喧嘩の詫証文あやまりじょうもんと、鉄ごしらえの脇差と、柿色の単物が預けてあります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、行手から旅姿、菅の小笠に合羽を着、足ごしらえも厳重の、一見博徒か口入れ稼業、小兵こひょうながら隙のない、一人の旅人が現われたが、笠を傾けこっちをかすと、ピタリと止まって手を拡げた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
銭湯で汗をながして、さっぱりして帰ると膳ごしらえが出来ていた。あじの酢の物にもろきゅう、烏賊いかさしにさよりの糸作り、そして焜炉こんろには蛤鍋はまぐりなべが味噌のいい匂いを立てていた。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)