手習てならい)” の例文
かつてわたしは、紫式部が、いろいろな女性を書いて来た後に、手習てならいきみ——浮舟うきふねを書いたことに、なんとなく心をひかれていた。
兄弟三人ともお習字の会に入っていたので、手習てならいにつかった半紙の反古ほごがたくさんあったから、これに糊をつけて、二重三重に眼張をした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ず第一に私は幼少の時から教育の世話をしてれる者がないので、ロクに手習てならいをせずに成長したから、今でも書が出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このあたりに隠れすみて里の子に手習てならい教えていたまいしが、うらわかくてみまかりたまいしとか、老いたる人の常に語る。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヒステリィの医学博士はかせ夫人が、夫を憎む余り、博士が彼女の筆蹟を手習てならいして、にせの書置きを作った様な証拠を作り上げ、博士を殺人罪に陥れようと企らんだ話がある。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
允成は抽斎の徳にしたしまぬのを見て、前途のためにあやぶんでいたので、抽斎が旅に立つと、すぐに徳に日課を授けはじめた。手本を与えて手習てならいをさせる。日記を附けさせる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あいつァ七八つの時分じぶんから、手習てならい仲間なかまでも、一といって二とさがったことのねえ手筋自慢てすじじまん
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「私の顔は日本とアメリカの整形外科の名医が、手習てならい草紙のようにして造り変えてしまったのです。昔の人の考えた、一時的の生優しい変装では承知が出来なかったのです」
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
夜、鶴子つるこ炬燵こたつに入りながら、昨日東京客からみやげにもらった鉛筆で雑記帳にアイウエオの手習てならいをしたあとで、雑記帳の表紙ひょうしに「トクトミツルコノデス」と書き、それから
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
七つ八つになつて、かれは手習てならいをはじめたが、勿論師匠について稽古けいこするのではなかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ようやく高名となってからは下駄屋をめて手習てならい師匠となり、晩年には飯田町の家は娘に婿を取って家主の株を継がせ、自分はせがれ宗伯そうはくのために買った明神下みょうじんしたの家に移って同居したが
余は父よりは伯父に愛せられて、幼きより手習てならい学問のこと、皆な伯父の世話なりし。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
手習てならいをさせても遊芸を仕込んでも何一つ覚える事の出来なかった彼女は、嫁に来てから今日こんにちまで、ついぞ夫の着物一枚縫ったためしがなかった。それでいて彼女は人一倍勝気な女であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
商いをほんの片手間に致しますので、子供も滅多に遊びにもめえりません、手習てならいをしまって寺から帰って来ると、一文菓子をくれせえと云ってめえりますが、それまではたれめえりませんから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近頃四谷に移住うつりすみてよりはふと東坡とうばが酔余の手跡しゅせきを見その飄逸ひょういつ豪邁ごうまいの筆勢を憬慕けいぼ法帖ほうじょう多く購求あがないもとめて手習てならい致しける故唐人とうじん行草ぎょうそうの書体訳もなく読得よみえしなり。何事も日頃の心掛によるぞかし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「——よろしいが、まだ、学課はおしまいではありませぬぞ。すずりに、水をおいれなさい、そして、草紙を出す」命じられるままに、手習てならいが始まった。よしと見て、民部は、ほかの室へ立って行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺へさしゃげて手習てならいさせて……
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私一人本が嫌いと云うこともなかろう、天下の小供みな嫌いだろう。私ははなはだ嫌いであったからやすんでばかり居て何もしない。手習てならいもしなければ本も読まない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
昼は昼で、笛やら、太鼓やら、踊の稽古けいこ手習てならいも一日おきで、ほっという間もなかったのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌年の七歳には特に手習てならい師匠にあがった。一葉女史の筆蹟が実に美事であるのも、そうした素養がある上に、後に歌人で千蔭流の筆道の達者であった中島師についたからだ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
午餐後ごさんご日の暮れかかるまでは、五百は子供の背後うしろに立って手習てならいの世話をしたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「わしか。禅坊主ぜんぼうずは本も読まず、手習てならいもせんから、のう」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は勿論もちろん幼少だから手習てならいどころの話でないが、う十歳ばかりになる兄と七、八歳になる姉などが手習をするには、倉屋敷くらやしきの中に手習の師匠があって、其家そこには町家ちょうかの小供も来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
以前、あのあたりの寺子屋で、武家も、町家も、妙齢としごろの娘たちが、綺麗な縮緬ちりめんの細工ものを、神前仏前へ奉献する習慣ならわしがあって、裁縫の練習なり、それに手習てならいのよく出来る祈願だったと言います。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
於保おやす手習てならい初メ
寺へ上ぼせて手習てならいさせて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺へのぼせて手習てならいさせて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)