手狭てぜま)” の例文
旧字:手狹
と、僕は言いました、『心というものは、そんな手狭てぜまなもんじゃありません。お父さんへの愛も愛なら、良人おっとにたいする愛も愛です。 ...
この女はある親戚のうち寄寓きぐうしているので、そこが手狭てぜまな上に、子供などが蒼蠅うるさいのだろうと思った私の答は、すこぶる簡単であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
深窓の佳人という言葉があるが、どこにどんな帳裡ちょうりの名花があるか、武家の家というものは、幾ら手狭てぜまでも奥行の知れないものだと思った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世に売れている人たちの仕事場などに比べては見るかげもないほどの手狭てぜまな処、当り前ならば、こっちからことばを低くして訪問もすべきであるのを
わたしの首が硬いのは昔からのことだ。ちょうどその頃わたしは一人の詩人を二週間ばかり同居させたが、そのため手狭てぜまでこまったのであった。
彼女かのじょの借りた傍屋は、いかにも古びて手狭てぜまで、おまけに天井てんじょうの低い家なので、いくらか小金こがねを持った連中なら、とても住む気にはならないからである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
或時手狭てぜまな家でお客をする事になったのです。お客はお医者仲間が二、三人、あとはおうさんがお世話になる、士地での旧家の主人や隠居たちです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
手狭てぜまながら贅沢ぜいたくに飾られた洋室、天井から下った古風な併し贅沢な空気ランプ、深いクッションの立派な長椅子。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大「宜うこそ……是れはお嬢様も御一緒で、此の通りの手狭てぜまで何とも恥入りましたことで、さ何卒なにとぞお通りを……」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家の間数まかずは三畳敷の玄関までを入れて五間、手狭てぜまなれども北南吹とほしの風入かぜいりよく、庭は広々として植込の木立も茂ければ、夏の住居すまゐにうつてつけと見えて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だんだん繁昌するようになって、神田の店が手狭てぜまになってきたので柳橋二丁目のこの角地を買い、張場はりばをひろくとって職人も二十人もつかい手びろく商売をやっていた。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これはお玉が池の家が手狭てぜまなために、五百の里方山内の家を渋江邸として届けでたものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ところで、摺沢さん、御覧の通り、この店ではもう手狭てぜまなくらゐ、本の数もえましたし……。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
親父おやじが死んでから春木町を去って小石川の富坂とみざかへ別居した。この富坂上の家というは満天星どうだん生垣いけがきめぐらしたすこぶる風雅な構えで、手狭てぜまであったが木口きぐちを選んだ凝った普請ふしんであった。
「あの、旦那様、お隣室となりが混み合いまして、まことにおやかましゅうございましょう。あの、少し手狭てぜまではございますが、あちらの四畳半が明いておりますから、御案内申しましょうか」
大臣の邸とは比べものにならない手狭てぜまな館ではあるけれども、一夕いっせき我が方へ臨席を仰いで饗宴きょうえんを催し、心の限りもてなしをして、感謝の念の萬分の一でも酌み取って貰えないであろうかと云うことも
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いやな熱気は手狭てぜまな部屋を立ちめる。
冬ぬくし日当りよくて手狭てぜまくて
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
家は今申した通り手狭てぜま至極しごくなものであります。門を出て右の坂上にある或る長者ちょうじゃこしらえた西洋館などに比べると全くの燐寸箱マッチばこに過ぎません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ころびばてれんの今井二官は、そんな追憶にふけりながら、手狭てぜま住居すまいの机によりかかって、しみじみと、縁先の柿の老木を眺めておりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は夜はいつでも店番をしているのだから、今晩もいるに違いないと、店中を、といっても二間半間口の手狭てぜまな店だけれど、探して見たが、誰れもいない。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手狭てぜまで診察室もないのですから、どこかもう少し広い所をと探して、小梅村の家を見つけたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
けれども、前申し上げた通り、私の家は手狭てぜまであって仕事場も充分でない。
残る一つを出ると内廊下から日本座敷へ続く。洋風の二間は、父が手狭てぜま住居すまいを、二十世紀に取りひろげた便利の結果である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
打ち見たところ、五人扶持ぶちぐらいな御小人おこびとの住居でもあろうか。勝手つづきの庭も手狭てぜまで、気のよさそうな木綿着の御新造ごしんぞはらものを出してきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまでは何しろ往来に近い手狭てぜまな家で、患者が来ますと困るからです。今度の家は大角とかいった質屋の隠居所で、庭道楽だったそうで、立派な木や石が這入はいっていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「この中が私の工房です。実に手狭てぜまでお恥かしいものですが、御一覧下さい」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庵はもちろん手狭てぜまだが、軒ばの木々の芽ざし、(縁)に垂るる卯の花の朝露、清楚、眼を洗われるものがある。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別荘というと大変人聞ひとぎきが好いようですが、その実ははなはだ見苦しい手狭てぜまなもので、構えからいうと、ちょうど東京の場末にある四五十円の安官吏の住居すまいです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「病間にて、取り散らしておりますが、おゆるしあるなれば、お通りくださいとの、半兵衛様のおことばでした。——何分、草廬そうろもお手狭てぜまでございますから」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本能寺が手狭てぜまのため、市中の宿舎に、わかれわかれに泊っていた麾下きかの士もかなりあったのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『かような手狭てぜまでの……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)